さらに、米国が、フィリピンへの米軍のローテーション配備など、地域へのプレゼンスを再び強めようとしていることを受け、中国政府は、南シナ海において出来る限りのものを手に入れるために、自分たちに可能なうちに、米国が押し寄せてくる前に行動しよう、と考えているかもしれない。
中国は、オバマ政権がアジア回帰を言う遥かに前から強硬姿勢をとっているが、オバマ政権の新しいアジア戦略への鈍い動きが、中国の南シナ海への進出を助長してしまったのかもしれない。米政府が、南シナ海で高まる危機をどう管理すべきかについて、平和的解決の要求を繰り返す以外に、ほとんど考えを持ち合わせていないことは、問題の解決に何の役にも立たない。オバマの国防費削減は、アジアの平和へのコミットメントを損なっている。
シリア情勢が明確に示している通り、地政学的困難は自然に緩和されることはない。これは、中東だけでなくアジアでも当てはまることである。南シナ海は、ますます、混乱の度を増すばかりである、と述べています。
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現在のオバマ政権には、中東問題が無かったとしても、東南アジア諸国を糾合して、中国の進出を抑えるという、クリントン国務長官時代の路線を継続する意図があるかどうか疑わしく思います。むしろ、6月の米中首脳会談で米中間の手詰まりが明らかになり、どうして良いか分らない最中に、シリア、エジプト、更にイランの問題が起こり、それに忙殺されている、というのが現実でしょう。
中国の海洋進出にどう対抗するかは、いずれ、しっかりした政策を作成することが必要ですが、その前提となる情勢判断としては、南シナ海における中国の進出の歴史から見て、中国は今後何十年にわたって、後に引くことはないのではないかと思います。1954年のフランスによるベトナム支配の終わりに際して西沙群島東半を占拠し、米軍のベトナム撤退を待って、西半分を制圧し、ソ連海軍のカムラン湾退去を見て、南沙群島に進出した歴史を見ると、過去60年間一歩も譲らず、機会があるごとに、如何に時間がかかろうとも、既成事実を積み重ねています。また、その都度、交渉による妥協や原則宣言などはしていません。それが将来の手を縛ることを恐れているからでしょう。