問題は、ガザ地区は和平の枠組み「オスロ合意」で将来のパレスチナ独立国家の一部となる地域でもあるということだ。緩衝地帯の設置によりその領土が縮小されるのはパレスチナ側にとっては容認できない。イスラエルとパレスチナ国家の「2国家共存」を追求するバイデン政権はイスラエル側に反対を伝えたが、イスラエルは一時的な措置として無視している。
出入り自由の権限を確保
緩衝地帯の建設とともに浮き彫りになってきたのが戦後のイスラエルの軍事戦略だ。イスラエルのネタニヤフ首相は「戦後もガザの治安をコントロールする」と明言していたが、軍が占領状態を続けるのかなど具体的な政策はいま一つはっきりしなかった。
しかしこのところ、イスラエルが戦後のガザの治安をどう維持していくのかが少しずつ漏れ始めてきた。情報を総合すると、イスラエル軍の戦後の軍事戦略は「必要な時にはいつでもガザに自由に出入りし、作戦を展開できる権限を確保する」ということだ。事実上のガザの占領継続と言えるだろう。
実際的には「もう1つのパレスチナ自治区であるヨルダン川西岸で行っている軍事政策をガザにも適用するということ」(ベイルート筋)だろう。「ヨルダン川西岸」では、イスラエル軍が随時、部隊を投入。イスラエル抵抗運動が拡大しないよう「過激派」の拠点への急襲を繰り返している。
西岸は「オスロ合意」ではパレスチナ自治政府が統治することになっているが、実態はイスラエルの占領下にある。ナブルスなどでは昨年、ハマスの活動に刺激された若者が過激化し、イスラエル軍は航空機まで動員して鎮圧、多数の死傷者が出た。ベイルート筋によると、こうした軍事行動の裏では、パレスチナ自治政府の治安組織が情報提供で協力しているという。
ガザ戦争がいつ終息するか予断を許さないし、イスラエル軍がハマスを壊滅することができるのかも分からないが、ネタニヤフ首相が戦後のガザについて拒絶するとしているのは次の3点だ。国際平和維持軍の展開、パレスチナ自治政府による統治、パレスチナ独立国家創設の交渉――である。
これら3点はすべてバイデン政権が首相に受け入れを迫っているものだ。同政権は国際平和維持軍にはアラブ穏健派諸国やトルコの参加を想定、パレスチナ自治政府による統治は現在のアッバス議長体制ではなく、「新生自治政府」に委ねるシナリオだ。だが、ネタニヤフ首相はイスラエルの安全保障を盾に、米国の要求をあくまでもかわす考えだ。