トランプ再登板を視野
百戦錬磨のネタニヤフ首相はこのまま戦争が終われば、自らの政治生命も終わることを知っている。どう終息するにせよ、少しでも自分に有利な形でガザ戦争を終わらせたいと考えているはずだ。そのためには、国内の世論や政敵を抑えることができるような強力な〝助っ人〟が必要だ。
そんな首相にとって格好な人物がいる。米国のトランプ前大統領だ。トランプ氏はエルサレムをイスラエルの首都と認定し、パレスチナ自治区の面積を3割削減したイスラエル寄りの「和平提案」を提唱したが、首相とは深夜も電話する仲だった。トランプ氏は共和党予備選では独走状態で、本選挙ではバイデン氏との一騎打ちの公算が高く、勝算も十分にある。
首相としては、大統領選挙が本格化する9月までバイデン政権の要求をはぐらかせば、後はなんとかなると考えているのではないか。9月以降は11月5日の大統領選挙に向けて選挙戦が本格化、バイデン氏もイスラエルどころではなくなるからだ。逆にバイデン氏は9月までにガザ戦争を終結させ、調停者としての成果をアピールしたいところだろう。
一方でネタニヤフ首相はハマスに捕らわれている人質の家族や世論から人質解放の猛烈な圧力にさらされている。人質解放交渉が現在、再び大詰めを迎えているのにはそうした背景がある。28日にパリで行われた交渉には、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官、イスラエル特務機関モサドのバルネア長官のほか、カタールとエジプトの代表も参画したとみられている。
米紙などによると、イスラエル側は人質全員(約130人)の解放と引き換えに2カ月間の停戦を提案。ハマス側が一時停戦ではなく、恒久的停戦を要求して対立しているもよう。
注目したいのはイスラエルがハマスのガザ指導者シンワルらの「国外退去」を言い出している点だ。抹殺以外認めなかったイスラエルがその姿勢を後退させたのは戦争遂行の困難さを浮き彫りにするものだ。