この社説は、南アによるICJでのジェノサイドについてのイスラエル告発を批判したものであるが、社説の理屈には賛成できる。
イスラエルがガザで行っている戦争はハマスの攻撃に対する自衛権の行使である。ただ、自衛権行使は必要性と均衡性の原則に沿う必要がある。
つまり、急迫不正の侵害に対してこれを排除する他の手段がないこと、自衛の手段とその行使の程度が受けた攻撃の度合い釣り合っていなければならないこと、が要求される。イスラエルは均衡性の要件を踏み外していると思われる点が多くあり、これは極めて遺憾なことである。
しかし、イスラエルがガザでしていることをジェノサイドとする南アの見解には、到底賛成できない。国籍、人種、宗教に着目して、それに属する人々を「何をしたか」ではなく「何であるか」を基準にして、その全部または一部を抹殺しようとするのがジェノサイドであって、イスラエルの行動はそれには当たらない。イスラエルの極右の政治家で、パレスチナ人を核兵器で皆殺しにすべしと言った人がいるが、イスラエル政府はこの極右政治家を批判している。
確かに、イスラエルは過剰な武力行使をしており、また女性や子供の死傷者の多さについては強く非難されてしかるべきである。しかし、ジェノサイドの告発はピント外れであり、イスラエルによる戦争法違反行為、人道法違反行為をこそ批判の対象とするべきである。ジェノサイドの告発により後者への注意が逸らされるという、社説の指摘はもっともである。
南アフリカはなぜ、提訴したのか
南アはアパルトヘイトに苦しんだ過去がある。イスラエルが今とっている政策は、アラブ人とユダヤ人を差別するアパルトヘイトに近い政策になってきている。イスラエルが行っているアラブ人差別に南ア政府が特別の感情を持つ気持ちもわかるが、今度のジェノサイドでのイスラエル告発はこの社説が言うように理論的裏付けを欠いているといってよいと思われる。
1月26日にICJは、イスラエルに対し、ジェノサイドを防ぐあらゆる措置を講じるよう求める仮保全措置命令を出す一方、南アが求めていたイスラエルに対する軍事作戦停止の要請は出さなかった。終局的判決には数年を要するとみられている。