エンパシーとは、「その人の立場だったら自分はどう感じ、どう考えるのかを想像して、理解する能力」のこと。英国在住のコラムニスト、ブレイディみかこ氏に日本で生かすべきエンパシーのあり方を聞いた。
ブレイディ 日本のあるテレビ局で、部下の女性たちが普段行っている業務を男性上司が実際に体験してみるという番組が放送された。まさしく相手の立場に立つ、つまり、「他者の靴を履く」という実験である。
お茶出しなんて簡単なことだと思っていたが、女性たちはこんなに細かいことまで考えてやっていたのか──。男性上司はそう感じたようで、他者の靴を履いて初めて分かることがあると実感した様子が印象的だった。
日本のジェンダーギャップ指数は依然として低く、日本社会や企業の中から「何とかしなければ」との思いは伝わってくる。これ自体、良い兆候だ。
ただし、自分はエンパシーを働かせているつもりであっても、本当に正しく想像できているか、自問自答することが欠かせない。特に男性は「自分はエンパシーを持っているから女性のことはよく分かっている」と過信しないことが大切だろう。
海外の事例を挙げたい。ジェンダーギャップ指数が14年間連続1位のアイスランドは、ウィメンズストライキを行う国として有名である。1975年の初めてのストライキは、90%以上の女性が、一日間、仕事も家事も放棄したという大胆なものだった。女性たちが働かないことで新聞は半分の厚さになり、スーパーマーケットでは、調理が簡単なソーセージを男性が買い、売り場から無くなったという。男性にとっては「生涯で一番長い日」とも言われ、アイスランドはこのストで「女性のありがたみ」を感じ、社会の変革が進んでいった。ここまでやってようやく男性の認識も変わったという側面もあるだろう。