2024年11月26日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年2月23日

 西側の観点からは、フィツォは外交政策においてオルバンほどには当てにならない訳ではない。彼はウクライナに対する武器の供給を完全に止めてはいない。彼はウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟に拒否権を行使すると言っているが、ウクライナの欧州連合(EU)加盟交渉は支持している。スロバキアがユーロ圏のメンバーであることが、EU内部でフィツォが混乱を起こし得る程度に限界を課すことになる。

 むしろ、フィツォのプライオリティは国内にある。彼はスロバキアの政治の舞台の支配を達成したいと欲しており、そのために21世紀の中欧の非リベラルな脚本を借用しつつある。この意味で、彼の首相としての返り咲きは、欧州におけるリベラルな民主主義擁護の厳しい戦いが新たな頂点をむかえつつあることを示すものである。

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世界が警戒すべきフィツォの行動

 18年、ロベルト・フィツォはジャーナリストのヤン・クツィアクと彼のフィアンセの殺害事件を契機とする大衆の反政府デモの最中に辞任を余儀なくされたが、5年後の23年10月1日の議会選挙で彼の左派政党Smerが第一党となった。彼は反移民で立場を同じくする中道左派Hlasと民族主義政党SNSと3党の連立政権を組むことに合意し、首相に返り咲くこととなった――議会(一院制)の150議席のうち与党3党で79議席を占める。

 フィツォの返り咲きは、ロシア制裁には反対、NATO主導のウクライナ支援はスロバキアの主権を損なう、人道支援は別としてウクライナへの更なる武器供与はしない(彼はMig29戦闘機を供与した前政権を批判した)という彼の選挙戦中の発言のゆえに、スロバキアがEUあるいはNATOにおける西側の結束を乱すことへの西側の懸念を惹起することになった。

 もっとも、彼の勝因の主たるものはこの種の国際問題では必ずしもなく、むしろ、パンデミックやウクライナ戦争がもたらす生活に係わる諸困難への対応に政治がてこずる状況で、安定、秩序と効果的なリーダーシップを約束したフィツォ(彼は06年から10年および12年から18年までの過去2回首相を務めた)に国民が期待したという側面もあったようである。

 1月20日のTV放送でフィツォは、ウクライナは「米国の絶対的な影響力」の下にあると言い、戦争を終わらせるためにウクライナがロシアに領土を割譲するよう求め、ウクライナのNATO加盟は第三次世界大戦を誘発するので反対だなど、挑発的な言辞を弄している。彼にはハンガリーのオルバンと連携する様子もあり彼の行動が警戒を要することは変わりない。


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