2024年12月3日(火)

Wedge OPINION

2024年2月9日

 民主主義、ことに代議制民主主義は国民の議員に対する信頼を基盤としている。この信頼が失われれば代議制民主主義は成り立たない。今回の一連の政治資金規正法違反の捜査がもたらしたものは、この「信頼」の喪失だ。

(akiyoko/years/gettyimages)

 不記載が長い間慣例化されていたのに、派閥の政治団体側では議員は誰一人として刑事責任を追及されなかった結果、国民の間には、議員に対する激しい不信感、怒りが湧き上がっている。なかでも、議員不信の極致といえる意見は、「議員に自らを縛る規正法改正ができるはずがないから、第三者機関を作ってあるべき規正法を策定して、国会にそれを承認させるべきだ」、「規正法違反で会計責任者だけが処罰されるのは不当だから連座制を導入して議員にも責任を取らせろ」という声だろう。いずれも、素朴な正義感に発する強い怒りの声であり、そのような声が出ても致し方のない状況だと思う。

 しかし、民主主義、特に代議制民主主義は、極めて脆い建築物のようなもので、手荒に扱うと容易に左右両翼のポピュリズムや全体主義に変わってしまう。それによって不利益を被るのは、結局は国民自身だ。民主主義を健全に発展させるためには、一時の激情に駆られた情緒的な議論ではなく、冷静で論理的な議論によって、改善策を見いだしていく以外に途はない。

連座制の導入は法治国家、民主主義を揺るがす

 その観点からすると、第三者機関に規正法の改革案を策定させようとする意見は、代議制民主主義の根幹を揺るがすものといわざるを得ない。

 第三者機関の構成員は選挙で選ばれたものではない。その意味で民主的正当性根拠を持たない構成員による機関で作られた法律案をそのまま国会で承認することは、国会の空洞化以外の何ものでもない。

 ワイマール体制の中、ヒトラーが国会を空洞化することによって独裁体制を作ったことを忘れてはいけない。代議制民主主義を健全に維持するためには、国会を国権の最高機関として重視していくことが必要不可欠である。

 次に、連座制であるが、連座制導入意見の背景には、「議員は本当は不記載に関与しているのに、責任を弱い立場の会計責任者に押しつけているに違いない」という強い思いがあるように感じられる。しかし、仮にそうだとしても、法治主義、法の支配の下では、会計責任者との共謀を立証する証拠がなければ議員の刑事責任を追及できないのは当然のことであり、法治主義、法の支配が確立されていることも、民主主義が健全に維持されるために必要なことだ。


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