2024年5月21日(火)

Wedge OPINION

2024年2月9日

 一方、連座制というのは、政治団体の会計責任者が規正法違反をしたときは、その会計責任者との共謀が何もなく、その違反行為に何ら関係していないにもかかわらず、議員の地位を剥奪しようというものだ。しかし、各議員は、それぞれ、万単位の票を得てその立場にいる。議員本人に何の落ち度もないのに、その会計責任者が違法行為をしたからといって、その地位を剥奪することは、その議員に投じられた幾万もの民意を否定することになる。

 ちなみに、公職選挙法では、選挙運動の総括主宰者等一定の立場で選挙運動をした者が買収等の罪を犯したときは、候補者本人がそれらの行為をせず、また、それらの選挙運動者との共謀が認められない場合であっても、その候補者の当選は無効とされ5年間公民権が停止される。たしかに、この場合は、その当選候補者の地位は、汚れた票で得たものということになるから、その地位を剥奪することに合理的理由がある。しかし、規正法違反の場合は、会計責任者に違反行為があったからといって、議員本人が汚れた票でその地位を得たことになるものではない。にもかかわらず、その議員としての地位を剥奪することは、合理的理由なく民意を否定することに他ならない。

 その上、連座制は、会計責任者である秘書に議員に対する生殺与奪の権を与えることにもなる。例えば、会計責任者が何らかの理由によりその議員を失職させたいと考えた場合、意図的に収支報告書に不記載あるいは虚偽記載をして提出し、その後、当局に自首すれば、連座制によって議員を失職させることができることになる。

 民意を受けた議員の地位を、民意を受けていない会計責任者が恣意的に左右できるような制度は、わが国の代議制民主主義を極めて脆弱なものにする。連座制の導入には強く反対せざるを得ない。

 他方、現行の規正法第25条には、政治団体の代表者が、会計責任者の選任および監督について相当の注意を怠ったときには50万円以下の罰金に処すと定められている。しかし、この規定は余りにも抽象的にすぎるため、実際に適用することが極めて難しい。

 そこで、条文で注意義務の内容を特定する、あるいは、会計責任者に違反行為があったときは、代表者たる議員に注意義務違反があったことを推認する規定を設けるという改正を行えば、実際に適用することも容易になる。本来であれば、連座制の導入ではなく、この第25条の改正こそが議論されるべきものだと思う。

規正法改正は思想の自由、内心の自由を害しかねない

 これら以外にも、現行の規正法では、政治資金パーティーについては、氏名公表の基準が20万円超となっているところを、5万円超にしようという意見も主張されている。しかし、そもそも、今回の一連の不記載事犯において、派閥の政治団体から議員個人の政治団体に戻されたパーティー券の売り上げは、20万円以下の購入者の分に限られていたというわけではない。

 したがって、氏名の公表基準は20万円超か5万円超かという議論は、今回の事件とは何も論理的つながりがない。その上、今回の一連の不記載事犯は、当事者(政治団体の会計責任者及び共謀が認められる議員)に遵法精神が欠けていたことによるものであるから、5万円超から氏名を公表することとしても、それによって不記載事犯の再発が防止されるわけではない。

 他方、この議論は、重大な問題点をはらんでいる。それは、憲法で保障されている思想の自由、内心の自由と抵触するおそれがあるということだ。憲法は思想の自由、内心の自由を保障しているが、これには、自己の思想や内心の表白を強いられない権利(ここでは「沈黙の権利」ということとしよう)を含んでいる。


新着記事

»もっと見る