第三に人口分布の歪みが拡大されることが予測される。2023年12月に2050年までの地域別将来推計人口が発表された。全国の人口減少率は17%だが地域格差は大きく、東京圏(一都三県)では5%未満にとどまる一方、地方圏では24%にもなる。
その結果、東京圏のシェアは29%から34%に上昇し、反対に地方圏のシェアは46%から42%に低下することになる。予想されたこととはいえ、改めて東京圏への人口集中が目立つ予測である。
「8000万人の国家」を目指す
今年1月、民間の経済人や研究者などによって構成される「人口戦略会議」(三村明夫議長)が、『人口ビジョン2100』と題する提言書をまとめて、岸田文雄首相に提出した。副題には「安定的で、成長力のある『人口8000万人国家』へ」と付されている。
目指すべきは8000万人の国家である。それも2100年には定常化させることが目標だ。そのためには2060年には合計特殊出生率を2.07に引き上げておかなくてはならないことも示している。
人口ビジョン2100では「未来選択社会」の実現に向けて取り組むべき二つの人口戦略を掲げている。その一つは人口減少をストップさせるための「定常化戦略」である。そのためには出生率の回復が必須である。
第二は「強靭化戦略」である。人口が定常化するまでには時間がかかり、今後、人口規模が4000万人は縮小することになる。社会の強靭化を図ることによって、人口が減っても多様性に富み、成長力のある社会を構築することが目標になる。
そしてこのビジョンが描くもう一つの論点は、人口減少を補うための補充移民政策を取らないことである。労働目的で受け入れる外国人は、高度または専門的な人材を基本にすべきとしている。2040年以降の国際人口移動を均衡化させるとしたことだ。
これは毎年の外国人の入国超過数がゼロになることである。その結果、2100年の外国人人口は10.4%にとどまるとする。
人口ビジョン2100が示した人口戦略は必ずしも目新しいものではない。10年前の「まち・ひと・しごと創生戦略」においても、出生率を向上させるための「積極戦略」と合わせて、人口減少に対応して、効率的な社会システムを再構築する「調整戦略」を同時並行的に進めていくことが必要とされていた。
この提言で際立っているのは、8000万人という明確な目標を示したことである。その上で、二つの戦略のどちらかではなく、一体的・統合的に推進する体制の設置を提案している。
若者に必要なライフプランニング
人口減少を抑制することに関しては、こども家庭庁の設置、「こども未来戦略方針」の策定によって、さまざまな手立てで出生率の回復を目指している。しかし多くの施策は出産から大学等への進学までのライフステージを支えるにとどまっている。思春期から結婚に至るまでの若者への支援は、所得の向上と雇用の改善までだ。この点で、人口ビジョン2100には耳を傾けるべき提案が示されている。
その一つは「プレコンセプションケア」である。著しい晩婚化の結果、希望する子ども数を満たせなくなっている。その背景には不十分な所得や不安定な雇用、高学歴化やワーク・ライフ・バランスの問題などがある。