2024年12月7日(土)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2024年3月11日

 また、そもそも日本国内での旺盛な設備投資需要がない中では、海外で得た利益は海外に再投資されるのであり、国内への還流は限られる。昔はそれでも、日本で採用された人材が、世界各国に駐在して現地法人の経営を行っていたが、現在は「現地人材に任せる」のが主流となっており、荒稼ぎをする海外駐在員というのもいなくなった。

 つまり、日本株を構成している中で大きな割合を占める日本発の多国籍企業の場合は、市場も、製造元も、そして利益の再投資も、人件費もすべて海外に落ちる。その業績は国内経済、つまり日本のGDPとはダイレクトにはリンクしていないのである。史上最高の好業績、とか株価の新記録といっても、国内経済が一気に明るくならないのはこのためだ。

4月以降に様相は変わるか

 2点目は、株価の形成も海外に依存しているということだ。まず、現在旺盛に日本株へ投資している欧州の投資家、そして米国の投資家の場合は、どうして日本株に投資しているのかというと、これは純粋に投資目的である。もっと具体的には、日本株の場合は「株価と為替レートの掛け算」になるので、ボラタリティ(上下の変動)が大きく取れるということがある。

 そのような外国人投資家は、どうして強気で日本株に投資しているのかというと、現在は円安が進行しているからだ。円安のうちに日本株を仕込んでおいて、円高になったら売る、そうすれば利益を確定できる。もちろん、円高になればすべてが反転するので日本株は下がるが、その前に売り抜ければ稼げるという思惑は確実にある。

 一方で、植田和男総裁率いる日本銀行は、「異次元緩和」の出口を模索している。ただ、年度内に実施してしまうと、企業業績も株価も年度内に大きく下がってしまう危険がある。そうなれば、せっかく広がった賃上げの動きに水をさしてしまう。また、岸田政権の支持率も更に動揺し、例えば4月の補選にも影響が出るかもしれない。

 反対に、4月に入って賃上げが確定し、補選の大勢が固まれば、多くの条件が揃い、いよいよ「緩和の出口」へと向かうかもしれない。植田総裁は、円高を覚悟しつつ、その範囲を穏やかなものとするように最新の注意を払うであろう。だが、一旦緩和の出口へ向かうサインが出れば、為替は円高へ向かい、外国人投資家は逃げ足早く株を売り浴びせるかもしれない。

 この全体構造は、現在の日本株を取り巻く構図としては、どうにも仕方のないものだ。つまり、株価が史上最高値だとか、4万円突破ということで、ニュースとしては明るいものの、今後については特に4月以降はトレンドが変わるという覚悟はする必要がある。明るいニュースといっても期間限定である可能性は高い。


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