筆者は「家計の円売り」こそ円相場、ひいては日本経済にとって最大のリスクではないかと考えてきた。昨年11月には本コラムへの寄稿『経常収支黒字でも進む円売り 資産運用立国で加速するか』でも取り扱った経緯がある。周知の通り、年初から盛り上がりを見せる円安・株高の背景として新たな少額投資非課税制度(以下、新NISA)の稼働を契機として変化する家計の運用行動があるとの論調が目立っている。
実際のところ、こうした議論は正しいのか。現在入手可能な情報から判断する限り、新NISAによる家計行動の変化は円安には直接的な影響がある一方、日本株上昇には間接的な影響があると言えそうである。以下で簡単に現状を把握してみたい。
日本株高水準の正体
先に日本株上昇について触れておくと1月18日に東京証券取引所が発表した1月第2週(9〜12日)の投資部門別株式売買動向によると、個人投資家は年末を挟んで5週連続で売り越しだったことが分かっている。しかも、売越額(現物+先物、以下同)は1兆695億円と、2013年11月第2週以来、約10年2カ月ぶりの高水準であった。
なお、厳密に新NISAの影響を映じるのは投資信託の動きだが、これも1200億円の売り越しだった。高止まりする日経平均株価を前に益出しを優先した個人投資家が圧倒多数だったということになる。
では、誰が株高をけん引したのか。海外投資家である。海外投資家の買越額は1兆4439億円と9カ月ぶりの高水準に達している。日本の個人投資家は高値で利益確定に踏み切る一方、海外投資家は円安によって割安感が増した日本株を買っているという構図が浮かび上がる。しかし、事情はもう少しだけ複雑である。
新NISAでも個人は日本株選ばず
日本の個人投資家は日本株を買わずとも海外株を買っている。統計上の動きだけから言えば、海外株を買うために日本株を売っている個人投資家すらいるだろう。こうした傾向は新NISA稼働以前からはっきり指摘されているものだ。
図①に見るように、日本の個人投資家は投資信託経由で日本株を売って海外株を買うという投資行動を2020年以降、長らく続けている。海外株購入に伴って当然、円売りも進むのでこうしたフローは円安の底流にあるのではないかと以前から言われてきた。新NISA導入はこの傾向を加速する起爆剤になっている可能性がある。
年初来、日本の金融市場で起きていることをまとめると「①新NISA稼働→②日本人が海外株を購入する→③円安が進む→④割安になった日本株を海外投資家が買う」といった資金循環があるように推測される。ここで問題になるのは③の規模感である。