重要なはずの先端分野への投資は少ない
3点目は規模の経済という問題だ。35年前、東証ダウが4万円に迫った時期の日本経済は、GDPベースで世界経済のおよそ17%を占めていた。だが、現在の日本は4%に過ぎない。
株価の話に戻すと、今回の高値により東証の時価総額は、約1000兆円になったと言われる。かなりの規模に思われるかもしれないが、例えばニューヨーク証券取引所の時価総額は23兆ドル、更にナスダックはもっと大きくて33兆ドル、合わせて56兆ドル(8400兆円)とはるかに大きい。
1980年代には、東証が世界一の時価総額を誇っていたのだが、今は見る影もない。これは単に勝ち負けの問題にとどまらない。現在の先端技術分野は、一見すると「脱モノ化」が進み、重厚長大型産業に依存していた20世紀とは異なって見える。けれども、先端分野における資金需要ということでは、当時を上回るものがある。
例えば、ビッグデータを格納するクラウド、言語情報や地理情報、気象情報、イメージ情報などといったビッグデータを収集する作業などには、膨大な資金が必要だ。モノづくりにおいても、最先端の「3ナノ」とか更に「2ナノ」といった微細技術を使った半導体の生産も、多額の資金が必要だ。最先端の航空機やロケット開発なども同様である。
かつて製造業世界一を自負していた日本だが、現在大きく遅れを取っている背景には、この資金の問題がある。国内の個人金融資産は高齢層の老後資金となっており、リスク選好度は極めて低い。従って、ハイリスク・ハイリターンの資金は限られている。
東証の時価総額にもそれは反映しており、外国人の投資を差し引いた真水の国内からの投資は少ない。また、空洞化した国外で回っている多国籍企業の海外投資を差し引いた国内投資という意味では、こちらも小さすぎて話にならない。
現在の東証が抱える問題は極めて根が深いと言える。円安に依存した株高、外国人に依存した投資によって形成された株価ということがまずあり、仮に国内に最先端を目指せるだけの人材の厚みがあったとしても、それを活かして産業を復活させるだけの資金調達力は東証にはない。
そんな中での4万円乗せということである以上、これを手放しに喜べることを筆者は理解できない。もちろん、80年代までの成功を知らない世代に対して、そんなことを言うのはやや酷なのかもしれない。けれども、1957年生まれの岸田首相が本気で喜んでいるとしたら、これは誠に困ったこととしか言いようがない。