第2は、アジア太平洋地域の戦略環境認識の擦り合わせである。今回の会合で、ショイグ国防相は米国によるミサイル防衛(MD)システムのグローバル化に懸念を表明したほか、ラヴロフ外相も外交的配慮から中国問題に深く言及することには慎重であった。それでも、ロシアは同地域の安定要因として日米同盟の有用性を認めるようになったほか、北朝鮮問題では日露双方の立場はほぼ一致しており、同地域に対する双方の安全保障認識は近接する傾向にある。
第3は、日露間の安保協力体制の制度化である。今回、ロシア国防相の訪日は10年ぶり、防衛相会談も7年ぶりであったが、「日露2プラス2」の枠組みを通じて自衛隊とロシア軍を率いる両大臣が定期対話を行う意義は大きい。2012年11月に国防相に就任したショイグは、1994年に非常事態省が設置されて以来、同大臣を18年間務めるなどロシア国民からの信任も厚く、プーチンの有力な後継候補と目されている。しかも、同人の外遊は、友好国や「2プラス2」相手国に限定されている。ショイグ国防相の対日姿勢が、今後の日露関係の鍵と言われるのはこのためである。さらに、日本版国家安全保障会議(NSC)が誕生すれば、首相官邸とクレムリンの間の直接のパイプも生まれ、重層的な安保協力体制が確立することになる。
ロシアの対日重視の姿勢は本物か
「2プラス2」の立ち上げにみられるロシアの対日重視姿勢は、プーチン大統領が主導する政治的なイニシアティブによる。2011年秋にプーチンが大統領選挙に出馬表明を行って以降、ロシア側は日露首脳会談や外相会談において、安保協力を優先議題として取り上げるようになった。例えば、2011年11月の外相会談でラヴロフ外相は、ロシアの軍事演習は日本を刺激する意図はなく、誤解を生まないためにも防衛当局間の緊密な関係を構築したいと述べたほか、同月の首脳会談でメドヴェージェフ大統領(当時)は日本との安保協力強化を申し出た。さらに、2012年10月にはプーチン側近のパトルシェフ安全保障会議書記が訪日し、日本外務省との協力に関する覚書が署名され、2013年4月の首脳会談での「2プラス2」合意に至っている。
その背景には、中国に大きく傾斜したロシアのアジア外交を多角化する狙いがある。国力格差により対等性が失われつつある中露関係を、ロシアに有利な形で展開していくためには、インド、日本、ベトナム、韓国などとの関係を強化して、外交上のバランスを保つ必要があるとプーチン大統領は考えている。2013年11月にプーチン大統領がベトナムと韓国を歴訪したのは、このためである。ロシアが中国のジュニア・パートナーに甘んじることを回避しようとする限りにおいて、ロシアが中国以外のアジア諸国との関係強化を目指す動きは続いていくと予想される。
但し、現時点では、安全保障分野におけるロシアの対日重視姿勢は政治的な範疇にとどまっている。「2プラス2」の初会合では、海上自衛隊・ロシア海軍間のテロ・海賊対策共同訓練や日ロ海上幕僚協議、サイバー安全保障協議の開始などが合意されたが、いずれも非伝統的安全保障分野の協力が中心である。