イスラエルが選択したのはイランの“虎の子”の核施設周辺を攻撃し、「いつでも破壊できる」と警告することだった。イラン側の再報復を招かないよう損害を最小限に抑えながら、イランにイスラエルの高度な軍事力を見せつけ、直接攻撃を繰り返させない戦略だ。イスラエルはナタンズの核施設を守る防衛システムを精密攻撃して実証した。
イスラエルはこの攻撃については一切発表していない。米国もブリンケン国務長官が「米国は攻撃には一切関与していない」と発言しただけで、ホワイトハウスは政府内に厳重なかん口令を敷いた。イランを刺激しないためだ。ガザ戦争で国際的に孤立していたイスラエルのイメージは改善、米下院は20日、約4兆円に上るイスラエル支援の緊急予算案を可決した。
イスラエルとアラブの和解の流れ加速も
イランとイスラエルは今回、互いの国土を直接攻撃したことで、これまでの「影の戦争」を国家同士の戦争へと変質させた。衝突拡大には至っていないが、偶発的なきっかけで全面戦争に突入しかねない「ガラスの均衡」と言える。ガザ戦争が終結しない限り、イスラエルとヒズボラの交戦は当面続くだろう。
一方でアラブ世界には負の副産物も生まれた。イランへの恐怖心である。
ペルシャ湾岸諸国はイランの革命輸出を恐れ、それがイスラエルとの和解の一因となった。ガザ戦争の長期化でイスラエルへの忌避感が高まっていたが、イランのミサイル攻撃で潮目が変わった。
アラブの盟主であるサウジがイスラエルとの和解の気運を加速するかもしれない。