ガザ戦争が半年を経過する中、イスラエルによるシリアのイラン大使館爆撃に対するイランの報復攻撃が切迫してきた。米、イスラエルが厳戒態勢を敷いているが、どこが標的とされるかは不明。そうした中でイスラエルが占領中のゴラン高原の駐留部隊が狙われるとの見方が急浮上する。「全面戦争に発展させずにメンツを保つ」というイラン側の苦肉の策だ。
イランの報復を分からせよ
中東情勢が緊迫化することになった発端は4月1日、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館の建物が空爆されたことだ。この攻撃でイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」の将軍ら13人が死亡した。イラン側はイスラエルの攻撃と断定、イスラエル側は沈黙を守った。
しかし米ニューヨーク・タイムズはイスラエル当局者が攻撃を認めたと報道。空軍機が6発のミサイルを発射したことなどが明らかになった。死亡した将軍はモハンマドレザ・ザヘディ上級司令官と、副官を含む「コッズ部隊」の6人。他にシリア人6人が巻き添えで犠牲になった。
同部隊は革命防衛隊の中で海外作戦を担当する中核だ。2020年に同部隊の伝説的な司令官ソレイマニ将軍がイラクで米軍のドローン攻撃により暗殺されたが、その後もイラク、シリア、レバノン、イエメンなどで活動を続けている。特にシリアにはアサド政権支援で数千人が駐留しているとみられている。
殺害されたザヘディ上級司令官はイランが育てたレバノンのシーア派組織ヒズボラとの連携や関係強化の中心人物。イスラエルと連日交戦しているヒズボラの作戦にも重大な影響力を持っていたとされ、革命防衛隊にとっては痛手だ。イラン側の怒りは激しく、最高指導者ハメネイ師はイスラエルの犯罪と断じ、「罪を犯したことを後悔させる」などと報復を宣言した。
ハメネイ師自ら報復を指示したことで、イスラエルへの報復攻撃が一気に現実味を帯びた。中東全域に戦火が拡大する恐れから市場が敏感に反応、原油価格の高騰や日本株の下落にもつながった。ソレイマニ将軍が殺害された際、ハメネイ師はイランがきちんと報復したことを米国に分からせることを要求。 このため革命防衛隊はイラクの米軍基地に数十発の弾道ミサイルを撃ち込み、米兵約100人を負傷させた。