2024年7月18日(木)

デジタル時代の経営・安全保障学

2024年6月3日

適性評価を行う職員の信頼性

 同じく第十二条第6項には適性評価調査は「職員」によって行われるとある。

 「6 適性評価調査を行う内閣総理大臣又は行政機関の長は、適性評価調査を行うため必要な範囲内において、その職員に評価対象者若しくは評価対象者の知人その他の関係者に質問させ、若しくは評価対象者に対し資料の提出を求めさせ、又は公務所若しくは公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。」

 この条文を見て、工作員であれば誰しもがこの「職員」を送り込むことを考えるだろう。セキュリティ・クリアランスを行う側に立てれば何も恐れるものはないはずだ。セキュリティ・クリアランスを形だけのものにしかねない「職員」についての規則は、何も定められていないのだ。

 機密情報の漏えいで思い出されるのがエドワード・スノーデン事件だろう。彼もまた米国のセキュリティ・クリアランスをパスしている。

 彼は高卒だったが大卒と学歴を詐称し、コンサルティング大手のブーズ・アレン・ハミルトン社に入社。米国家安全保障局(NSA)に派遣され、2011年には最高機密にアクセスできる権限を認可されている。

 オバマ政権下では、政府の機密情報アクセス許可の審査が遅滞するのを避けるため民間企業の効率性に期待して、セキュリティ・クリアランスの審査を外注することが奨励されていた。この時、身元調査を請け負ったのが政府のセキュリティ・クリアランスの45%を実施しているUSIS社であった。

 スノーデン事件をきっかけにUSIS社の捜査が行われUSIS社のプロパー7人と連邦政府職員11人が虚偽の身元調査書類を作成したとして有罪判決を受けている。当時米国のセキュリティ・クリアランス制度を所掌していた米連邦政府人事管理局(OPM)の監察官パトリック・マクファーランド氏は、上院公聴会で一例として1600件もの身元調査書を偽造した女性職員がいたこと、この職員の身元調査書も偽造だったことを明らかにしている。

 学歴詐称を見破れれば情報漏えい事件が回避できたかはさておくとして、セキュリティ・クリアランス制度の信頼性を担保するのは、審査する側の「職員」の質である。

 戦後79年という長きに渡って日本に対する諜報活動が行われてきた結果、民間企業では研究開発部門といった直接的に機密情報を扱う部門だけでなく、財務部門や人事部門といった間接部門にも工作員、協力者は浸透している。こうした実態から考えると、政府の職員として工作員や協力者が活動していたとしても不思議ではない。「職員」の厳格な審査が求められる。

「普通の国」になるかは今後の有識者の議論次第

 一部ではあるが、現段階での問題点や課題について指摘した。この他にも指摘できる点は山ほどあるが、セキュリティ・クリアランス制度の法制化はスパイ防止法を持たない日本が「普通の国」になる第一歩として評価したい。

 セキュリティ・クリアランス制度は、重要情報にアクセスできる人を「この人物は外部に漏らすおそれがない」との「お墨付き」を与える制度である一方、個人の秘密にしておきたい情報を扱う極めて国家権力を強める制度である。また、適格性評価情報の漏えいや不適切な扱いにより国家を危機に陥れる危険性も秘めている制度である。

 国民の理解を深め、広く支持を集め、セキュリティ・クリアランス制度を実効性のあるものとするためるためにも、今後の有識者による議論と透明性の確保が重要である。注意深く見守っていきたい。

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