これまで本連載では37回にわたり古今東西のインテリジェンスについて扱ってきた。最終回では、わが国の今後の展望について考えていきたい。
インテリジェンスとは、収集した情報を分析し、政策のためにカスタマイズすることで、国家の意思決定に貢献するためのものだ。特に外交や安全保障、公安の分野において、インテリジェンスは威力を発揮する。
また情報は必ずしも秘密である必要はなく、公開情報からでも有益なインテリジェンスを得ることは可能だ。ただし最近話題のべリングキャットのような、公開情報分析を専門とする調査団体は、国家インテリジェンスとは一線を画す。なぜなら同団体は国の政策決定に何ら関与していないからだ。
とはいえ、インテリジェンス分野における民間企業や団体の貢献は大きく、特にサイバー分野においては、もはや国のみで完結した活動を行うことは不可能だろう。
現在、サイバー分野は各国がしのぎを削っている分野であり、インテリジェンス組織とも親和性が高い。特に国家間のサイバー攻撃や防御などについては、国際法やルールが明確に存在しているわけではないので、高い技術を持ち、グレーゾーンでの活動を得意とする情報機関が対応することになる。
各国に後れを取る日本
人員確保とSC構築を
米国では国家安全保障局(NSA)、英国では政府通信本部(GCHQ)、ロシアでは連邦保安庁(FSB)が主にサイバー空間での活動に関与している。日本では総務省がサイバー・セキュリティーの主管官庁ではあるが、その他にも内閣官房や警察、防衛省・自衛隊もそれぞれの所掌の範囲でサイバー活動に対応している。
日本のサイバー活動の特徴としては、サイバーを技術領域に位置付けているため、インテリジェンスや安全保障の観点から同分野を扱っていないということだ。さらにサイバー空間においても専守防衛の縛りがあるため、各国が実施しているような相手方の攻撃に対する牽制・抑止、さらには反撃ができない。つまり日本はサイバー上で攻撃されて初めてそれに対処するという形を取っている。
しかしこれではあまりにも受動的であるので、2022年末の国家安全保障戦略では、日本のサイバー・セキュリティーを「欧米並みに引き上げる」ことが謳われた。これを基に能動的サイバー防御(ACD)が検討され、少なくともサイバー攻撃に対して未然に「妨げる」能力を備えることが目標となっている。
また法的規制に加え、日本政府がサイバー分野に投じている予算や人員も諸外国に比べると過小である。米国のサイバー軍は6000人、中国人民解放軍のサイバー部隊は3万人なのに対し、日本のサイバー防衛隊は現状、800人規模にとどまっている。これを強化、拡充していくことが喫緊の課題だ。