高所得者しか全額受け取れないEV補助金
米国製EVを購入すると、税還付の形で最大7500ドルの補助金を受け取ることが可能だ。今年からは、車を売買する際に税還付の条件を満たす車種についてはディーラーが7500ドルを値引き販売することが認められた。
購入者が税申告を行えば、ディーラーに内国歳入庁(IRS)から値引き分が支払われる仕組みだ。補助金を受け取るには、購入車種と価格などの条件に加え上限所得の制限があるが、大半の納税者は補助金を受け取れる(〈EV販売失速は本当か?〉日本のメディアが見逃している真実、データから見る世界のEV販売の現状)。
この補助金制度には落とし穴がある。所得が少なく納税額が7500ドル以下であれば、納税額が還付額の上限となるので、補助金額は少なくなる。
米国のネットの相談窓口には、「夫婦の合算納税(米国では合算と単独の納税を選択可能)で、7万5000ドルの所得だが、EV購入の補助金はいくらになるのか」との相談も寄せられていた。22年の米国の世帯所得の中央値は、7万4580ドルなので、相談者は標準的な世帯に相当する(図-1)。
回答は「7万5000ドルの所得から標準では2万8000ドルの経費を控除するので、課税所得は4万7000ドル。税額と還付額は5200ドル」となっていた。2300ドル分は、繰り越しはできないので、放棄することになる。ディーラーから7500ドルの値引きを先に受け取っていた場合には、IRSに2300ドルを返納する必要がある。
今年3月時点の米国でのEVの平均販売価格5万4021ドルに対しICEは4万7218ドルと約7000ドルの差がある。連邦政府の補助金でその差を埋めることが可能だが、所得が低い世帯はEVを購入しても、補助金を全額受け取れなく、EVは高いままだ。
EV購入世帯の所得の中央値は18万6000ドル、一方新車を購入する世帯所得の中央値は12万2000ドルと大きな開きがある。連邦政府はEVを購入可能な高所得者に補助金を出せばよいと考えているのだろうか。
まさに、貧乏人はガソリン車を買えと言われているようだが、二酸化炭素(CO2)の排出規制がこれから厳しくなることから、「貧乏人は新車を持つな」になるかもしれない。