所得と自動車所有との関係
車社会米国では、車を2台以上持つ家庭が多いが、車を全く持たない家庭も全世帯の8.3%ある。1台持つ家庭が32.6%、2台37%、3台以上22.1%だ。車を持たない家庭は、公共交通機関が発達したニューヨーク州などの大都市部に多く、車を3台以上持つ家庭は、公共交通機関がない、モンタナ、アイダホ州などに多い。
車の所有に関係するもう一つの要素は、所得だ。米政府の貧困の定義、4人家族で年収2万6500ドル以下に該当する人口は約3400万人だ。
貧困層では、車を持たない世帯が20%、1台が40%、2台以上が40%とされる。車がなければ、学校、職場に通うことも困難であり、よい教育、就業の機会も失われ貧困を悪化させる。
インディアナ大学の研究者が、米国の自動車に関する環境規制が貧困層に与えた費用と便益を分析した。環境規制は大気汚染の改善につながるなどのメリットを貧困層にももたらしたものの、車の値段を大きく引き上げることになったと指摘している。
低所得者は、中古車を購入するケースが大半だが、環境規制の強化による新車価格の上昇は中古車価格も同じように引き上げ、貧困層の生活を困難にさせる。
貧困層は、EVを購入することも価格、充電設備。バッテリー交換などの面から難しく、EV導入政策についてはさらに検討が必要と研究者は指摘している。
そんな中、米環境保護庁(EPA)は、CO2排出規制を強化し、EV導入を一層進める方針を発表した。選択肢が減少し貧困層だけでなく、中間層にも大打撃だ。
どんな車でも買えます、EVである限り
米国のエネルギー起源CO2のほぼ4割は輸送部門から排出されている(図-2)。世界では輸送部門の比率は22%程度なので、自動車の利用が多い米国の現状を表している。
自動車からのCO2排出量削減のため、EPAは2027年から32年モデルの自動車から、CO2の排出規制を厳しくする案を3月20日に発表した。32年モデルの乗用車では1マイル(約1.6キロ)当たり73グラム、車種平均85グラムとなり26年モデルの50%になる。
ワシントンポスト紙には、ヘンリー・フォードの初期のT型フォードに関する言葉「どんな色の車でも買えます。黒色である限り」をもじった「バイデンの不可能な夢‐どんな車でも買えます。EVである限り(筆者訳)」と題したコラムが掲載された。
コラムは、EPAの規制が消費者の車購入時の選択肢を奪うことは明らかであると指摘し、規制がもたらす気温を抑制する効果は、2100年までで0.023℃しかなく、誤差の範囲内で意味はないとばっさり切り捨てている。
さらに、バッテリー製造用の鉱物採掘、重いバッテリー搭載、充電設備、気温によるバッテリー性能の低下など多くの問題を挙げる一方、規制のメリットについては触れていない。