2024年12月21日(土)

World Energy Watch

2024年6月11日

 今年4月の米国内乗用車の販売シェアは、バッテリー稼働EV(BEV)7.0%、プラグインハイブリッド(PHEV)2.3%、ハイブリッド(HV)8.7%だが、EPAは規制による変化を3ケースに分けており、32年にはBEVのシェアが35%~56%、PHEVが36%~13%、HVが13%~3%と想定している。

 3ケースの中で、もっともBEVのシェアが増える中心ケースは表の通りだ。高価格のEV以外の選択肢が狭まり、低所得者は新車を買えなくなる。

 では、安い中国製EVを買うことはできるだろうか。欧州では中国メーカーのEV価格は欧州製より2割安いとの見方がある。

 今中国国内のEVの価格は安い。世界最大のEVメーカー比亜迪(BYD)の小型車シーガルの中国での販売価格は1万ドルから1万5000ドルとされている。

 中国の自動車メーカーの生産能力は大きく過剰になっているので、国内市場での安値販売に加え輸出攻勢をかけているとみられているが、バイデン政権は安い中国製EVの流入を防ぐため、関税の引き上げを発表した。

 消費者は安い中国製EVの選択肢がなくなる一方、これから米国産EVの値上げに直面する可能性が高い。フォードもGMもEV製造部門は現状では赤字と言われており、米国メーカーはEVの値上げを狙うだろう。

安い中国製EVも市場から消える

 今年5月14日、バイデン大統領は不公正な貿易に対し制裁措置を発動する通商法301条に基づき、中国製EVに対する関税を現在の25%から100%に年内に引き上げると発表した。公正な競争環境の確保、自動車産業の競争力維持、雇用を支援する目的だ。

 EVに加え、鉄とアルミ25%、リチウムイオン電池25%、荷揚げクレーン25%、半導体と太陽光セル50%の関税も発表された。

 米国で今年第1四半期に販売された中国製EVはジーリー(吉利汽車)が株式を保有するスウェーデン・ボルボからスピンオフしたポールスターの約1000台だけと思われる。

 ボルボが、欧州で販売好調な中国製BEV EX30の販売を米国でも開始するので、中国製EVの台数は今後増えるものの、その存在感はまだ小さい。中国製EVに対する100%の課税は、大統領選を控えた自動車産業、特に組合員に対するアピールだろう。

 ボルボは、今年6月からサウスカロライナ州の工場で、BEV EX90の生産を開始している。ポールスターも今年後半に米国での生産を開始する。結局関税を回避するため中国メーカーは、米国、あるいは隣国での生産に踏み切ることになる。

 米国での生産であれば雇用が維持され、米国内での部品調達もあるが、中国企業が日本の自動車メーカーのように、米国内で大きな存在感を持つことは懸念すべきだろう。中国製EVの輸入の方がましだったとならないだろうか。

 米国政府は、中国が世界生産の6割以上を握るEV推進一辺倒でなく、国民生活を重視する必要があるのではないか。

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