2024年10月6日(日)

プーチンのロシア

2024年7月5日

 店のレベルダウンは明らかだった。天ぷらは油でべとべとで、店員らは奥で平然と話をしていて客への対応は遅い。長時間放っているようで、サラダやトッピングのねぎは乾いていた。つゆはぬるく、うどんもゆで方がいい加減なのか、歯ごたえがなくふにゃふにゃしていた。それでも、値段は以前よりも高かった。

モスクワの「マル」で提供されていた、ひどい味の「うどん」

 「ひどいな……」と内心でつぶやいたが、周囲は誰も気にしていない様子だった。隣で食事をしていた、髪の毛をピンクに染めた派手な服装の若い女性に話を聞くと、こともなげに「初めて来たからわからないけど、美味しいわ」と笑って答えた。

 大半が若い客で、店は繁盛している様子だった。もともと、日本食を食べ慣れている人たちではない。彼らにとって、味の違いなどあまり気にならないに違いない。きっと、この店の売り上げは悪くないのだろう。複雑な思いで店を後にした。

 撤退した効果が疑われるケースはほかにもあった。撤退を決めたマクドナルドは、私がモスクワを訪れた2022年5月の段階では、店舗は次々と閉店し、「制裁が進んでいる」との印象を強く与えていた。

 しかし、市中心部のマクドナルドの店舗では、閉店した店のすぐ隣で、バーガーキングが営業していた。マクドナルドを横目に、バーガーキングには次々と客が流れていった。

 バーガーキングのチェーンはカナダの資本が保有していたが、ロシアでの合弁先が、閉店を拒否したのだという。客は、ただ店があるところに流れる。マクドナルドがなくなったことを残念に思う人々はいたのだろうが、大半の場合は別のライバル店に客が向かうことになるという現実もあった。経済制裁の実情だと言わざるを得なかった。

〝合法的〟に進む西側企業への乗っ取り

 撤退した外資系企業の事業を、表向きは合法的にだが、ロシア資本が事実上、接収に近い形で引き継ぐケースも相次いだ。マクドナルドはその典型例だった。

 マクドナルドのロシア市場からの完全撤退を受け、私がロシアを離れた直後の6月12日には、その後継となるチェーン店「フクースナ・イ・トーチカ(おいしい。ただそれだけ)」が各地でオープンしたのだ。

 「これがハンバーガー。味は以前と変わらない。ポテトも同じだ。ただ包装が変わった。ロゴがない。ソースは、マクドナルドのソースのマークを〝消して〟使っているね」

 モスクワのユーチューバーは開店当日に店舗を訪れ、全メニューを購入してその味の違いを「実況中継」してみせた。店内は客であふれ、店舗の再開を喜ぶ声を次々と上げていて、映像からもロシア国内での期待の高さが窺えた。


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