2024年12月22日(日)

プーチンのロシア

2024年7月1日

 国際刑事裁判所(ICC)は2024年6月25日、ロシアのウクライナ侵攻をめぐり、ショイグ前国防相とゲラシモフ参謀総長に対して戦争犯罪などの疑いで逮捕状を出したと発表した。ゼレンスキー大統領は歓迎と期待のコメントを述べたが、これまでにもICCはプーチン大統領に逮捕状を出したものの、逮捕は困難と言われている。果たして今回はどうなるか。
 ロシア軍を取り巻く状況は混迷の度を増している。約1年前、プーチン氏が強行したゲラシモフ参謀総長のウクライナ侵攻総司令官任命は功を奏したのか。当時のロシア軍を取り巻く状況の実態は果たしてどうだったのだろうか。2023年1月24日に掲載した『ゲラシモフ総司令官任命はロシア軍崩壊への序章か?』を再掲する。

 ロシアのウクライナ侵攻開始から間もなく1年が経過する中、ロシア軍を取り巻く状況が混迷の度を増している。昨秋以降のウクライナ軍の反撃を受け、東部戦線でも目立った戦果を出せず、ロシア国内では私兵集団を率いる強硬派が台頭して軍への批判を平然と行う状況に陥っている。

ロシア政府は、ウクライナ侵攻の総司令官に軍制服組トップであるゲラシモフ参謀総長(右)を就任させ、軍の立て直しを図っている(代表撮影/ロイター/アフロ)

 プーチン大統領は1月、軍制服組トップのワレリー・ゲラシモフ参謀総長をウクライナ侵攻の総司令官に据える異例の人事に打って出たが、補給面での問題も抱える戦局を打開できる見通しは立っていない。今後実施が予想される総攻撃で失敗すれば、ロシア軍はさらに危機的な状況に追い込まれるのは必至だ。

なぜ、ゲラシモフが任命されたのか

 「ゲラシモフ氏の総司令官任命は、プーチン大統領が〝誤った認識〟のもとで達成しうると考えた軍事作戦を達成するために実施されたと推察される」。米国の軍事シンクタンクは1月上旬、ゲラシモフ氏の総司令官任命の問題点を端的に表現した。

 ゲラシモフ氏はサイバー攻撃や正規の戦闘などを組み合わせた「ハイブリッド戦」を提唱した人物として知られ、2014年に起きたロシアによるウクライナ南部クリミア半島の併合や、その後の中東・シリアでのロシア軍の軍事作戦を成功させた軍功を持つ。ソ連時代からのエリート軍人で、ショイグ国防相が軍務経験を持たないなか、実質的な軍トップの立場に立つ人物だ。

 ただ、総司令官としてのゲラシモフ氏の先行きを楽観視できる要素が多いとは言い難い。

 ロシア軍は昨秋にウクライナ軍による東部ハリコフ州の奪還を許して以降、南部ヘルソンでも撤退し、東部戦線においてもこれまで目立った戦果があげられないままでいる。武器・弾薬の補給もままならない状況が続き、不十分な装備で戦闘に送り込まれる兵士の士気も低下していると国内でも批判されている。

 ゲラシモフ氏の下には、前任の総司令官だったスロビキン大将ら3人が副司令官として任命されたが、彼らの具体的な役割なども判然としていない。兵站が不十分な状態が続き、10万人規模ともいわれる死傷者を出す中、ロシア軍が組織上の変更だけで事態を急激に好転させられる可能性は低い。

 そのような状況にもかかわらずゲラシモフ氏が総司令官に任命されたのは、戦略上の妥当性ではなく、急速に台頭する私兵集団を率いる強硬派からロシア軍を守ろうとするプーチン氏による政治的判断があったとみられている。


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