2024年7月5日(金)

プーチンのロシア

2024年7月1日

 プーチン大統領はワグネルへの入隊者に対し、秘密裡に恩赦を与えていたと指摘されている。さらにワグネル加入後に戦地から生きて帰還できれば、過去の罪状は問われない。ウクライナでどのような蛮行を行っても一切無罪となる。

 ワグネルへの入隊は、「私たちは存在しない」という前提で行われるからだ。ワグネルをめぐっては、ウクライナで戦う海外の傭兵から見ても、高い給与が支払われているとされる。

 このような私兵集団がロシア側の軍事作戦の中枢を担っているという事実は、ロシア軍の能力に深刻な疑問を投げかける。さらにロシア国内では、ワグネルは〝愛国者集団〟などとして評されているという。

 傭兵に依存する構図はウクライナ軍も同様だが、世界最大規模の軍事力を持つとされたロシア軍がすでに、軍としての体をなしていない実態が浮かび上がる。

チェチェン首長も

 ロシア軍を公然と批判する強硬派はプリゴジン氏だけではない。侵攻開始当初に、民間人の虐殺が判明したキーウ近郊のブチャなどでの作戦に参加していたことでも知られるチェチェン共和国の私兵集団を率いるラムザン・カディロフ首長も同様だ。

 カディロフ氏は昨秋、ロシア軍がウクライナ東部リマンから撤退した際には「前線から150キロメートル離れた場所でどうやって軍の状況が分かる。司令官を即座に降格させて、最前線に送りこめ」などと主張した。さらに、小型核兵器の使用を主張し、「米国の目を気にする必要などない」とも発言していた。

 カディロフ氏が率いる私兵集団もまた、装備に恵まれ、ロシア軍よりも高い士気を持つと指摘されている。プーチン氏には忠誠を誓うカディロフ氏だが、ロシア軍幹部に従う意思は弱いとされ、仮にウクライナ紛争を契機にプーチン氏が失脚するような事態が起きれば、カディロフ氏が再びロシアに反逆する可能性も否定できない。

組織として崩壊状態に陥る危険性

 私兵集団を操る強硬派にロシア軍が批判を浴びるさなかで、プーチン氏が強行したゲラシモフ参謀総長の総司令官任命は、そのような批判を封じ込め、ロシア軍を立て直す意図が強く伺える。前任のスロビキン大将がわずか3カ月で副司令官に降格された背景には、スロビキン氏がプリゴジン、カディロフの両氏と緊密過ぎたからだとみられている。

 ただ、ロシア軍をめぐる状況がここまで厳しくなるなか、ワグネル、チェチェン兵らを押しやる形で形勢を立て直せるかには疑問符が付く。ロシア軍は間もなく総攻撃に打って出るとの見方もあるが、武器・弾薬の補給面で深刻な問題を抱える中、その成否は見通せない。

 大規模攻勢をかけて失敗するような事態になれば、ロシア軍が受けるダメージは単に兵力の損失という次元では済まない。ロシア軍は組織として立ち直りが効かないほどの打撃を受けることは確実だ。

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