2024年7月16日(火)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2024年7月9日

 また近隣住民へに対するインタビューというのも非常識だ。近隣住民というのは、大谷夫妻とすれば、今後も長く近所付き合いの続く可能性のある人々である。そうした人々に迷惑をかけたというのは、夫妻としては許しがたいであろう。

 また、このエリアの住民というのは社会的な地位は相当に高いと見込まれる。ロクに説明もしないで取材した可能性があるが、ここまでプライバシーを侵害した低レベルの編集がされて放映されたと分かれば、最初は快く取材に協力した人も困惑しているに違いない。

日本野球への視線にも影響

 最大の問題は、こうした事件が続くことでドジャース球団や、米国の野球界の中で「日本市場」が重視されなくなるという可能性だ。野球というのは本来はチームスポーツである。チームとして試合に勝利し、優勝を目指すというのが大前提であり、その点で球団も選手も、そしてファンも一つになって戦うものだ。大谷選手がドジャース移籍を選択したのも、優勝争いに参加し貢献したいという一念からであったことは、誰でも知っている。

 けれども、日本のメディアはドジャースではなく、あくまで大谷選手個人を追い続けている。この傾向は以前からそうで、イチロー選手の場合はチームの勝利より連続200安打の継続というプレッシャーを日本のメディアから受け続けており、米国のメディアや一部のチームメートとの関係が一時期悪化したこともある。

 大谷選手の場合、それが極端なものとなっている。その上で、大谷選手を追い回す日本のメディアが、ドジャースの野球どころか、大谷選手に関しても野球に関係ない私生活のことを執拗に追いかけているというのは、球団としても落胆しているに違いない。メディアの扱いの「質」が落ちているということは、日本という「市場」の魅力への疑問に通じるということもあるだろう。

 例えば、2025年のメジャー開幕戦の日本開催については、一時期ドジャースの参加が報じられたが、後にこの話は消えていった。その背景にも、球団としての、あるいはファンの心理として「日本人は大谷選手にしか興味がない」という落胆がある可能性がある。

 今回の事件は、ロサンゼルスにおけるドジャース球団とファンにおける、こうした見方を加速する可能性があり、だからこそ猛省が求められる。

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