2024年7月16日(火)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2024年7月9日

 大谷選手の場合は、公開される登記簿の購入者として氏名が出ることは避けて、別の名義での登記をしたようだが、これは著名人の場合にはよくあることだ。そうした場合でも、不動産のプロであるフレミング記者が、この売買は大谷選手のような著名人が関与しているという情報を得た場合に、事実関係を確認したうえで、この種の記事を書くということは十分にある。

米国のニュース専門局は報じず

 また、不動産の市場動向という文脈ではなく、純粋に芸能情報やゴシップの扱いで、著名人が豪華な物件を買ったとか、反対に金銭トラブルから物件を手放したというようなニュースが流れる場合もある。こうした場合は、ネタ元は公開されている登記情報であることが多いので防ぎようがないが、少なくともタブロイド判のゴシップ紙などの媒体に限られる話である。

 反対に、NBCなどの地上波3大ネットワークや、CNNなどのニュース専門局、ESPNのようなニュース専門局が、著名人の不動産売買を物件が特定できるような内容で報じることはない。もちろん、その物件が何らかの犯罪の舞台となったなど、事件性を帯びている場合は別だが、そうでなければ主要メディアは扱わない。

 つまり、著名人の自宅に関する踏み込んだ報道というのは、社会的に信頼度の低いゴシップ・メディアであるか、または不動産の市場動向という文脈でなければ、米国では報道されることは基本的にはない。いくら、登記情報が誰でも閲覧できるとはいえ、そこには節度というものがある。

 そうした社会常識を知らず、主要紙のLAタイムズが書いたのだから、自分たちも報道して構わないだろうという判断に至ったのであれば、これは全くの勘違いとしか言いようがない。

 日本の世論の一部には、事件に憤るあまりにLAタイムズの記事についても、人権侵害だから削除しろなどという主張がある。けれども米国では、そもそも不動産の登記に関してはガラス張りの公開を原則としながら、メディアがその情報を報道に使う際には、ある節度をもって対応してきた事情がある。フジテレビと日本テレビは、この節度を踏みにじったことに問題があり、球団が強い態度に出たのもこのためだ。

取材手法にも問題が

 2番目の問題は、ドローンを使って空撮をしたとか、自宅前からの撮影、更には近隣の住人へインタビューを行ったということだ。まず、ドローンや自宅前での撮影に関しては、もしかしたらLAタイムズのフレミング記者の記事が邸宅の写真を掲載しているので、問題ないという判断をしたのかもしれないが、これも全くの誤解である。

 LAタイムズの掲載した写真は、グーグルが衛星から撮影したイメージを3D化して提供しているもので、幅広い公益性と利便性から一般に提供されている。新聞への掲載も、出典を表示することで使用を許可されている。それ以上でも以下でもない。

 この3D化した衛星写真と比較すると、実際に物件の上空からドローン空撮するとか、自宅前にカメラを構えて取材するというのは、全く別の次元の問題である。被害にあった大谷選手とその家族からすれば、許しがたいというのは明白だろう。


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