2024年12月21日(土)

Wedge REPORT

2013年12月26日

 ではなぜオバマ大統領のアジアへのピボットは、本当の意味で始まる前に終わってしまったのか。その理由の1つは、外交政策を運営する個々人と関係したものだ。先に述べたように、ピボットの真の生みの親はクリントン氏とキャンベル氏だった。だが、両氏とも1期目の終わりの13年2月にオバマ政権を去った。

 新国務長官のジョン・ケリー氏は、両氏に比べると、アジアにもピボットそのものにも傾倒しているようにはとても思えない。むしろ欧州に対して強い関心を持つことで知られており、イランおよびシリアとの慌ただしい協議に飛びついた。また、キャンベル氏のようなユニークな特質を持つ東アジア担当国務次官補もいない。そのため、今のオバマ政権内にはアジアに強い関心を持つ高官がおらず、現職のアジア担当者たちは前任者ほどの影響力を持たない。

 とはいえ、最も重要なことは、先にも述べたように、現政権がオバマ大統領以下、なぜ米国にピボットが必要だったのかそもそも十分に説明してこなかったことだ。重要な政策にもかかわらず、明瞭さがないため、オバマ政権が2期目早々に窮地に陥ると、ピボットはいとも簡単に棚上げされてしまう。そこに予算削減などの国内の困難が重なり、オバマ政権は米国の関心をアジアに着実にシフトさせるお金とエネルギーが底をついてしまった。

 このことは、今後さらに自信を深める中国と向き合うことになる米国の同盟国、友好国にとって、心配の種になる。信頼できる米軍のプレゼンスがなく、米国大統領の側に明確な政治的意思がない今、アジアの安定を維持するのが難しくなる可能性は十分にある。

 アジアの主要大国間における信頼が依然欠如しており、東シナ海での問題など深刻な論争を解決する(あるいは議論する)多国間メカニズムが存在していないという事実は、米国の役割が相変わらず重要であることを意味する。しかし、米国が60年にわたりアジアの平和維持に力を貸し、同盟関係にある国々と協力してきた今、オバマ政権はまさに米国の政策を根本的に悪い方向へ変えてしまう瀬戸際にあるのかもしれない。

 それは図らずも、オバマ大統領自身が、世界一重要だと言った地域において、いくつか選択を誤り、自身の政治的、軍事的影響力を落としてしまった結果なのである。

◆WEDGE2014年1月号より










 

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