2024年12月21日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2013年12月17日

 2013年11月23日、中国政府は突如、東シナ海上空における防空識別圏の設定を発表し、同日午前10時(日本時間同11時)から施行されることとなった。

 防空識別圏というのはその名称通り、防空上の必要から自国の領空に接近してくる他国機を「識別」して、それに対する緊急発進などの措置をとるかどうかを判断するために設定する空域のことである。普通は自国の領空よりもさらに広範囲の空域を設定して、他国の飛行体がこの空域に入ってきた場合、直ちにその機種などを識別、自国の領空を侵犯する可能性があるかどうか、自国の防衛上の脅威となる飛行体であるかどうかを判断して相応の措置をとる。それがすなわち「防空識別圏設定」の意味である。

 重要なポイントの1つは「識別」という2文字にある。つまり識別圏というのはあくまでも、他国機に対する「識別」のために設定したものであって、他国機の航空の自由を制限するものではない。防空識別圏は領空ではないから、ある国が自国の識別圏として設定した空域は、他国の飛行機が自由に進入し通過することができるのである。

 以上は普通でいう防空識別圏の性格であるが、もし中国が単にこのような意味での防空識別圏を設定したのであればそれは特に何の問題もない。多くの国々がすでにやっていることをやり始めただけのことである。

事実上の「領空拡大」?

 しかし問題は、中国が設定した防空識別圏はまったく異質なものであるということだ。

 まず1つ、中国が設定したこの識別圏には、尖閣諸島上空の日本の領空も含まれている。他国の領空を自国の防空識別圏に入れてしまうようなことはまさに前代未聞の乱暴なやり方であり、日本にとっては当然、断固として拒否すべきものである。

 実はそれよりもさらに大きな問題となっているのは、中国の設定した防空識別圏は、中国領空に接近する航空機だけでなく、空域を飛行する航空機全般を対象とするものだということである。しかも中国は、設定空域を航行する航空機に飛行計画の事前届け出を求め、識別に協力しない、または指示を拒否した航空機に対しては、中国軍が「防御的緊急措置」を行うと警告しているのである。

 中国は、自分たちが設定した識別圏を事実上の領空にしてしまい、この空域における他国機の航空の自由を奪おうとしているのである。あたかも公共道路に隣接する一軒の家が、公共道路までを自分の家の一部に「設定」し、道路を歩くすべての人々に「俺の許可をもらえ」と命じたかのような荒唐無稽な話である。 

 つまり、中国の狙うところは、普通の防空識別圏の設定ではなく、特異な防空識別圏の設定による事実上の「領空拡大」なのである。それこそが問題の本質なのである。


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