2024年11月22日(金)

教養としての中東情勢

2024年7月29日

 こうした国内状況に加え、北方のレバノン国境地帯ではシーア派武装組織ヒズボラとの交戦が激化、レバノン侵攻さえ強いられかねない情勢だ。戦争になれば、アラブ各地から数千人の義勇兵がヒズボラに参戦すると報じられている。

 さらにこのところ、1600キロメートルも離れたアラビア半島のイエメンの反政府勢力フーシ派から長距離ドローンやミサイル攻撃を受けていることも大きな懸念の的だ。7月19日に最大都市テルアビブが攻撃されたのに対し、イスラエル空軍が報復爆撃したが、ガザ戦争が終わらない限り、緊張は緩和されまい。

首相のシナリオ

 ベイルート筋や米紙などの情報を総合すると、ネタニヤフ首相の訪米日程はこうした苦境から脱し、政権と権力を維持する目的で組み立てられたものだった。ポイントはイスラエル国会が8月から夏季休会に入る点だ。最長10月後半まで休会となるが、首相のシナリオは次のようなものだろう。

 7月末までの訪米で国内を不在にし、この間の倒閣の動きを抑え、国会の夏季休会につなげる。総選挙に追い込まれる場合でも、来年3月ごろまで先延ばして時間を稼ぐ。

 訪米は「米国と渡り合えるのは自分しかいない」ことを国内向けに誇示し、支持率を上げる手段。そのためにも米国からイスラエル支援を獲得しなければならない。

 ハマスとの停戦協議は“偽装的に”続行するが、停戦合意には難くせを付けて妨害し、戦争は終わらせない。終戦となれば、責任を問われて辞任せざるを得ないからだ。とにかく最優先は政権を維持し、権力を保持し続けることだ。

 首相はこうしたシナリオを現実のものにするため、なんとして訪米を成功させたかった。だから上下両院での議会演説は力が入った。

 ハマスとの戦いを「文明と野蛮との衝突」とし、ガザ市民3万9000人の犠牲を出した攻撃を正当化。「イスラエルの敵は米国の敵であり、イスラエルの勝利は米国の勝利だ」と米国と一体であるという巧みなレトリックを多用した。

クギ刺したハリス

 ネタニヤフ首相はバイデン現政権、トランプ前政権双方に気を配り、慎重に言葉を選んで超党派の支持を取り付けようとした。共和党からは喝采を受けたものの、民主党の評価は散々で、ペロシ元下院議長は「これまでの外国人指導者の演説で最悪のもの」と切り捨てた。

 上下両院の民主党系議員263人のうち、約半分が演説をボイコット、議会の職員約100人が演説へ抗議して「病欠」した。上院議長役のハリス氏も政務多忙を理由に欠席してみせた。米国の分断の波をモロにかぶった格好とも言えるだろう。

 首相は25日にはバイデン大統領、ハリス副大統領と相次いで会談。バイデン氏は会談で「停戦合意を成立させる時だ」と伝えた。ニューヨーク・タイムズは、イスラエル軍当局者はバイデン大統領が停戦を受け入れるよう首相を説得することを期待していると報じていた。


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