「メニューを見せてくれない」日本の社会保障制度を知る
二冊目『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(雨宮処凛著、光文社)はいささか刺激的なタイトルの本である。世の中がどんどん複雑になる中で、文字通り社会で生き残るための方法が多く紹介されている。
本書を読むと 日本という国がつくづく 役所支配の国であるということが分かる。 役所=行政機関が提供するサービスの内容はもちろんのこと、それを申請する手続きの方法を知らなければ、 人々が必要な支援にたどりつけない国なのである。
しかもそれを適切に教えてくれる人が少なく、 その結果情報弱者となって恩恵を受けられない。本書はそうした状況を上手に乗り越えていくための知識や方法について詳しく解説した。
例えば本書に「人が助かる瞬間」というくだりがある。 職を失って地方から上京し、ネットカフェで寝泊まりしながら職探しをしたものの見つからず、ついに路上生活となって2008年末から09年明けに「年越し派遣村」へ相談にきた30代の男性の話である。
支援者からあたたかい食事を提供してもらいつつ聞き取りを受け、シェルターに案内される。年明けまで過ごし、年が明けて役所が開くと同時に生活保護の申請をする。生活保護の申請が通り、住むところを探せるまでシェルターに滞在できるという流れである。
「さっきまで今日の寝床もなく震えていた男性は、その日からあたたかい個室シェルターの布団で眠れるだけでなく、公的福祉によって生活を再建するところまでの道筋が作られた」「住所も住民票がなければ仕事はなかなか見つからないが、アパートに入れれば仕事も見つけやすい。一度路上に出ると自力での生活再建は困難を極めるが、 制度に詳しい支援者が対応すればこれほどスムーズにいくのだ」という部分は目を引く。
逆に言えば、日本には多くの制度がありながらそれが知られておらず、正しく窓口に申請した人のみが利用できるという非常に使い勝手の悪い状況に陥っているのである。本書では「メニューを見せてくれないレストラン」と表現するが、まさにその通りである。
本書はこうした問題意識の下で、弱い立場に置かれた人がどうすれば課題を解決できるか、という視点から多くのケースを紹介しており参考になる。
具体的には、雇用に関する制度の説明のほか、親の介護で使える制度など内容は多岐にわたる。病気になって治療費がかさんでしまった場合の高額療養費制度や、独り身の人が人生の最期を迎えるための手続きなどにも言及されている。
各方面の専門家のコメントも引用しながらわかりやすく制度を紹介しており、独り身でも自らセーフティネット(安全網)を構築できることがわかる。こうした情報はなかなか普段の生活の中では意識しないが、一度立ち止まって考える機会を持つことは有益である。