2024年8月28日(水)

BBC News

2024年8月28日

ケイティー・ワトソン、BBCニュース

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は26日、汚染を最も引き起こしている国や企業にこそ、二酸化炭素(CO2)排出量を削減する明確な責任があると発言した。そうしなければ、世界的な大惨事のリスクがあるとしている。

グテーレス事務総長は、トンガで開催されている太平洋諸島フォーラムの指導者会議に出席。BBCの取材に対し、「太平洋は現在、世界で最も気候変動の影響を受けやすい場所だ」と述べた。

「太平洋との関係には大きな不公平がある。それが私がここにいる理由だ」

「小さな島々は気候変動の原因にはなっていないが、気候変動のために起こるすべてのことが、ここでは倍加される」

そのうえで、やがて「押し寄せる海は、私たち全員を襲う」と、グテーレス氏はフォーラムでの演説で警告した。

国連は今回、海面上昇と、それが太平洋島嶼(とうしょ)国をどのように脅かしているかについて、2件の報告書を発表した。

世界気象機関(WMO)が発表した、太平洋南西部における気候状況に関する報告書によると、この地域は加速する海面上昇、海の温暖化、そして海の酸性化という三重苦に直面している。温暖化が進むと海がCO2を吸収するため、その酸性度が上昇するという。

グテーレス氏は演説で、「その理由は明らかだ。化石燃料の燃焼によって大量に発生する温室効果ガスが、地球を加熱しているからだ」と語った。

「文字通り、海が熱を抱え込んでいる」

今年のフォーラムのテーマである「変容するレジリエンス」は、早くも初日に試練を迎えた。会場が豪雨に見舞われたほか、地震によって建物からの避難を余儀なくされた。

気候変動の活動団体「350」の太平洋主任、ジョセフ・シクル氏はBBCに、「この地域の状況がいかに不安定か、そしてあらゆる事態に備えることがいかに重要かを思い知らされた」と語った。

会場からほど近い場所では、トレス海峡諸島やトンガ、サモアなど、この地域を代表するダンサーたちによるパレードが行われた。パレードのスタート地点には、「私たちは溺れているのではない、戦っているのだ」と書かれた大きな横断幕が掲げられていた。他にも、「海面が上昇している。我々も立ち上がっている」という横断幕があった。

こうした標語は、この地域を消し去りかねない困難に呼応している。国連の気候変動対策チームが発表した報告書「温暖化する世界における海面上昇」では、世界の平均海面水位が、過去3000年間で前例のない速度で上昇していることが示された。

この報告書によると、世界の海面水位は過去30年間で平均9.4センチメートル上昇したが、熱帯太平洋では15センチも高くなったという。

「特にオーストラリアやアオテアロア(ニュージーランドのマオリ語での名称)といった国の指導者たちが来て、自分たちの目でこうした状況や、人々の回復力を目撃することが重要だ」と、前出のシクル氏は述べた。

「トンガ文化の核となる部分は、逆境にあっても喜びを持ち続けることができる能力であり、私たちがレジリエンスを鍛える方法でもある」

グテーレス事務総長が太平洋諸島フォーラムの指導者会議に参加するのは今回が2度目。この年次総会には、オーストラリアやニュージーランドを含む18の太平洋諸島の首脳が一堂に会する。

しかし、公式の開会式のために各国首脳が招集されたとき、大雨が大洪水を引き起こした。その直後、マグニチュード6.9の地震がトンガ地方を襲い、トンガの脆弱(ぜいじゃく)さが浮き彫りになった。

2019年、グテーレス氏はツヴァルを訪れ、海面上昇に警鐘を鳴らした。それから5年がたち、グテーレス氏は実際の変化を目の当たりにしたという。

「我々は、気候変動に抵抗し、気候変動による悪影響を軽減しようとする多大な努力をいたるところで目にしている」と、グテーレス氏はBBCに語った。

「問題は、太平洋諸島がもう一つの大きな不公平に苦しんでいることだ。苦境にある国を支援する国際的な金融手段は、このような国のために設計されたものではない」

グテーレス氏は26日、海面上昇によって生活が脅かされている地元コミュニティーを訪問した。この地域の人々は、防潮堤の資金調達に関する決定を7年間待ち続けている。

グテーレス氏は、特に発展途上の小さな島嶼国に関する国際金融システムの欠陥を指摘し、「官僚主義、複雑さ、遠く離れた小島であるがゆえの危機感の欠如といったものがある」と述べた。

「途上国の適応に使える資金を増やすという約束はあるが、実際のところ、必要とされているものにも、これらの国が存在できるために必要な連帯感にも、我々は程遠いところにいる」

この会議に参加した多くの国々は、この地域の最大の援助国であり排出国でもあるオーストラリアを非難した。

アンソニー・アルバニージー首相は先に、化石燃料からの撤退を求める声が出ているにもかかわらず、オーストラリアは「2050年以降」までガスの採掘と利用を拡大すると述べた。

オーストラリアのような地域的な排出国に対するメッセージはあるかというBBCの質問に対し、グテーレス氏は「大排出国には本質的な責任がある」と回答した。

そうしなければ、世界は2015年のパリ協定で定められた「1.5度」という上限を超えることになると、グテーレス氏は説明した。この協定では、化石燃料使用の進む以前からの世界的気温上昇について、今世紀末まで平均2度を「はるかに下回る」水準に抑制し、より安全な平均1.5度以下に抑える「努力を追求する」ことを目的としている。

「温暖化を1.5度に抑えることでしか、グリーンランドと西南極の氷床の不可逆的な崩壊、そしてそれに伴う大災害を防ぐ可能性はない」

「そのためには、2030年までに世界の排出量を2019年比で43%削減し、2035年までに60%削減する必要がある」

しかし、世界の排出量は昨年、1%増加した。

グテーレス氏は、「排出量の80%を占める主要20カ国(G20)には、今すぐ排出量の削減を保証する義務がある。一丸となって、今すぐ排出量の削減を保証する義務がある」と述べた。

また、G20だけでなく、世界の排出量の大部分を占める企業にも「現在の傾向を逆転させる明確な責任がある。今こそ 『もうたくさんだ』と言う時だ」と述べた。

(英語記事 Surging seas are coming for us all, warns UN chief

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c5y326eey6no


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