消費者の購買行動に視野を広げて考えよう。品薄の状況で、不完全な情報を伝えらえた消費者は、メディアの切り取り的な報道に影響されて「期待が期待を、予想が予想を呼ぶ」方向に走る。それがさらなる需給の不均衡を招きがちである。
特に現在のコメの情報に対しては、国からの情報に懐疑的な消費者も多いはずだ。昨年2023年産米について、農林水産省の作況調査が最後まで、「平年並み」との判断が変わらなかった。にもかかわらず、現場では、品薄、逼迫傾向になった。今後は、作況指数のみならず、現実の面で、10月、11月の出回り、価格動向等を注視する必要が出てきてしまっている。
そうした中で、不安定な情報が出回り、ひとたび買い急ぎに火が付くと、不均衡は加速する。それは、過去の歴史でもあったことだ。
不安を打ち消すのに必要なこと
「賢者は歴史に学ぶ」とも言われる。消費者の購買行動と政府対応について遠くない歴史にも触れておきたい。
田中角栄内閣のときである。世界的な「調整インフレ」の中、1973年に生活関連物資の価格が高騰、買い占めや売り惜しみが社会問題となったいわゆる第一次オイルショックが起きた。
あらゆる物資がモノ不足、価格高騰で大騒動の中、食品でも起きた。
ある日、大阪から連絡が入った。「醤油が足らないそうだ。 明日は、開店と同時に買いに行かないと、手に入らない」
当時は食管法の下で食糧庁に力があった。広がる噂に対し食糧庁の幹部は、直ちに、醤油メーカーのトップを集め、醤油を満載したトラックを夜通し西に走らせ、開店前の店頭に山積みさせた。これを見た消費者は、「何だ、こんなにあるなら慌てることはないか」と立ち去ったと伝えられる。
これに倣ったのがトイレットペーパーを軽トラに山積みし旗を掲げた通産省紙業課長のパニック防止作戦である。
もう一つ、乳児用粉ミルクである。品薄状態となり、官僚たちは「買い占め売り惜しみ防止法」の対象に指定しようと閣議決定を試みる。しかし、閣議には掛からなかった。
「指定すれば、必需品だけに却ってパニックになる」と官邸トップの判断があった。かつての統制の怖さを十分に知っていたのである。
今回のコメ不足も、打ち消して是正するには、現ブツを目の前に積み上げて見せるしかない。籠城戦で水が枯渇した際に、米を水のように流して、敵方に、「水は十分ある」と見せかけた故事もある。