2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年9月23日

 フィリピンは、「透明性イニシアティブ」の誕生で、中国の不法な振る舞いを明るみに出して国際世論に訴えようとした。この政策は中国のアプローチを劇的に変えることには失敗したが、重要なことは、国内世論を動員することにより、中国の偽情報工作とともに有力者による親中のナラティブを脇に追いやったことである。

 米比両国は、米比相互防衛条約の下における義務について適切な見直しを始めるべきである。特に、中国による「グレーゾーン」戦術を包含し得るよう「武力攻撃」の敷居を再検討すべきである。両国は「最後の手段」として共同のパトロールと補給ミッションも考慮すべきである。

 前途は危険である。両国を巻き込む望みもしないエスカレーションの可能性は常にある。しかし、明らかなことは、フィリピンは鍵となるパートナー諸国と共に、モメンタムを維持し南シナ海の侵略者を追い払うために戦術的・ロジスティクス上の大きな調整を必要としていることである。

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中国の悪辣な海上行為を明るみに

 セカンド・トーマス礁周辺における妨害活動に続き、今度はその東約60キロメートルにあるサビナ礁(フィリピンの EEZ 内に位置する)が中国による妨害の舞台である。このところ少なくとも3回程度、フィリピンの補給活動を妨害しようとする中国海警の船舶がフィリピンの巡視船に意図的に突っ込む事件が発生しており、8月31日には日本から供与されたフィリピンの大型巡視船の船体が損傷した。

 中国の妨害行動を抑止するためのフィリピンの努力の一つが「透明性イニシアティブ」であり、中国の悪辣な行動を明るみに出すことを狙いとしている。この努力は、国際世論に訴えること、および国内世論を方向付ける上で一定の成果を挙げているのではないかと思う。

 他方、この論説はフィリピンが中国の妨害を排してセカンド・トーマス礁に座礁させている揚陸艦Sierra Madraを要塞化したことをもって、フィリピンの「透明性イニシアティブ」の成功に数えているようであるが、そもそも Sierra Madraは瓦解が心配される老朽艦で、実効支配の証として維持されているに過ぎず、これが要塞化されたという実体はないのではないかと思われる。

 先頃、フィリピンを訪問したパパロ・インド太平洋軍司令官は、食料などの補給物資の輸送に当たるフィリピンの艦船のエスコートを検討する用意はあるとし、エスコートは「相互防衛条約における完全に合理的なオプション」だと述べたが、彼の発言の意図は必ずしも明らかでない。


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