予想されるサプライズ―決してあってはならないのは?
では、今回の大統領選挙でどのようなオクトーバーサプライズが起こり得るのだろうか。
第1に、イスラエル-ガザ戦争において、目下のところ難航している停戦交渉ないしその合意の成立が、投開票日前に実現すれば、ハリスに有利になることは確かだ。
しかし、イスラエルと、レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラとの戦闘が激化しており、ベンヤミン・ネタニヤフイスラエル首相は、汚職で訴えらえている裁判から一時的に逃れるために停戦を拒否し続けている。
そして、停戦は自身に不利に働くという理由で、トランプは、ネタニヤフに投開票日前に停戦をしないように圧力をかけているとみられる。2人の利害はこの点で一致しているので、現状ではこのサプライズは起こりにくい。
一方、バイデンはイスラエル寄りであるが、人道的な観点からも停戦の必要は十分理解しており、米国の努力による停戦は、彼のレガシー(政治的功績)にもなる。しかも、ハリスの選挙戦における援護射撃にも繋がる。
第2に、投開票日の直前にハリケーン・サンディのような自然災害や国内テロが発生した場合、オクトーバーサプライズになり得る。
この場合、ハリスよりも現職大統領であるバイデンの危機管理能力が問われることになるが、トランプの選挙戦略上、トランプ陣営によって、ハリスの責任追及が不当に大きくなされる。
トランプは、マイク・ペンス前副大統領を重要視したとは思えないが、ハリスに対しては約3年半ホワイトハウスにいながら何もしていないと批判している。加えて、トランプは「バイデン―ハリス政権」ではなく、「ハリス―バイデン政権」と呼んでいる。
第3に、トランプが仕掛ける陰謀論に基づいたサプライズ―この可能性は排除できない。ただ、今回のハリスとトランプのテレビ討論会と同様、米メディアがファクトチェック(事実確認)を行う公算が大きい。仮に、偽りであることが確認されれば、トランプにとって逆効果になるだろう。
第4に、筆者が最も懸念しているのが、トランプ暗殺未遂に対するトランプ支持者によるハリスへの報復である。これは第1から第3とは次元が異なる強い衝撃を伴ったサプライズである。
目下、中西部ウィスコンシン州、ミシガン州並びに東部ペンシルベニア州などを含めた激戦7州において、ハリスとトランプの支持率は拮抗しているが、統計の誤差以上にハリスがトランプをリードした場合、要注意だ。
9月16日に2回目のトランプ暗殺未遂が発生すると、トランプ支持者であるイーロン・マスク氏は、バイデンとハリスの暗殺を促すともとれる発言を自身のX(旧ツイッター)に投稿した。マスクはこの投稿を削除し、「冗談だった」とコメントをしたが、有名人の無責任な発言は、トランプ支持者にハリス暗殺の動機を与えることになり、極めて危険である。
ハリスはこれまで通り、屋外ではなく、屋内で選挙集会を開催すべきである。第4のオクトーバーサプライズは、決してあってはならないサプライズである。