2024年10月3日(木)

教養としての中東情勢

2024年10月3日

 イランが報復を躊躇している間にネタニヤフ首相はヒズボラへの攻撃を激化させた。ハマスとの戦闘に終わりが見えたいま、新たな戦争相手が必要になった。自分が権力の座に留まるためには、事実上戦争を続行する以外にないことを十分に認識しているからだ。

 ヒズボラのポケベルに仕掛けた爆弾を爆発させ、遂には指導者のナスララ師を猛爆撃で抹殺した。ヒズボラの司令官ら幹部20人も一緒に殺害した。米紙によると、イスラエルは本来、ナスララ師への攻撃日時を「10月11日」と極秘に決めていたが、同師がベイルート南郊の本部から他に移る可能性が高まったため、9月27日に急きょ実施した。

 首相はさらに10月1日には軍をレバノン南部に地上侵攻させ、これまでにヒズボラの武器・弾薬の半分を破壊したという。ヒズボラは15万発に上るロケット弾やミサイルを保有していたとされる。イランはヒズボラが大打撃を被ったことで、最大の「前方抑止力」を失い、自らが直接イスラエルに報復することを強いられる事態になった。

2つのシナリオ

 報復は最高指導者のハメネイ師が攻撃の朝に最終決断したという。ベイルートからの情報などによると、同師の決断に当たってはイスラエルへの軍事攻撃を主張した革命防衛隊司令官らの強硬派と、抑制的な行動を訴えたペゼシュキアン大統領らの慎重派が激しくぶつかった。

 強硬派は弾道ミサイル攻撃こそイスラエルの反撃を抑止するために有効だと強調。同派の支持者はSNSなどで「自制の要求は反逆と同じ行為」などと批判キャンペーンを強めた。慎重派は「攻撃すれば、全面戦争を狙うイスラエルの罠にハマる」などと反対論を展開したが、ハメネイ師が強硬派に軍配を上げた。

 だが、今後の展開はひとえにイスラエルの反撃の強度と中身にかかっている。行方を占うシナリオは2つだ。

 楽観的なシナリオはイスラエルの反撃が4月のケースと同規模というものだ。イランはこの時、シリアのイラン大使館への爆撃の報復として、ミサイルやドローンなど350発を発射した。

 これに対し、イスラエルはイスファハンの空軍基地に精密誘導ミサイルを数発撃ち込むシンボリックな攻撃にとどめた。バイデン米大統領の要請を入れて抑制的に対応し、同空軍基地が防衛すべきナタンズの核施設を「いつでも攻撃できる」とのメッセージを送った。


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