2024年10月9日(水)

BBC News

2024年10月9日

デイヴィッド・グリッテン、BBCニュース

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は8日にビデオ演説を行い、レバノン国民に対し、同国からイスラム教シーア派組織ヒズボラを追い出し、「(パレスチナの)ガザのような破壊と苦しみ」を回避するよう直接求めた。

ヒズボラを標的としたレバノンへの地上侵攻を続けるイスラエルは、レバノン南西部の地域に数千人の兵士を新たに送り込み、その規模を拡大している。ネタニヤフ氏の呼びかけはこうした中で行われた。

ネタニヤフ氏はビデオ演説の中で、イスラエル国防軍(IDF)がヒズボラの次期指導者とされるハシェム・サフィディン氏を殺害したとも主張した。しかしIDFは後に、同氏の死亡を確認できていないと明らかにした。IDFは先月末の空爆で、ヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ師を殺害。サフィディン氏はナスララ師の後継者とされる。

ヒズボラは8日、イスラエルの港湾都市ハイファに向けてロケット弾を一斉に発射した。この攻撃で12人が負傷したとされる。ヒズボラによるハイファ攻撃は3日連続。

「ガザ同様の破壊と苦しみ」を回避するチャンス

ネタニヤフ氏はレバノン国民向けのビデオ演説で、「あなた方には、ガザで見るような破壊と苦しみをもたらす長い戦争という奈落の底へレバノンが落ちる前に、国を救うチャンスがある」と語った。

「レバノンの人々に伝える。ヒズボラから国を解放してください。そうすればこの戦争は終わる」

レバノン当局によると、3週間にわたるイスラエルによる激しい攻撃やその他の攻撃で、レバノンでは1400人以上が殺害され、約120万人が避難を強いられている。それでもヒズボラは挑戦的な姿勢を崩していない。

ナスララ師の副官だったナイム・カセム氏は8日、ヒズボラはイスラエルによる直近の「痛烈な打撃」を乗り越えたとし、同組織の能力に「問題はない」と主張した。

パレスチナ・ガザ地区でのイスラエルとイスラム組織ハマスとの戦争を端緒とした、現在のイスラエルとヒズボラの戦闘は1年近くに及んでいる。

イスラエルは、ヒズボラによるロケット弾やミサイル、ドローン(無人機)の攻撃で家を追われたイスラエル北部国境地帯の数万人の住民について、安全な帰還を確保したいとしている。

ヒズボラとハマスはいずれもイランから支援を受けている。ヒズボラはパレスチナ人への連帯を示すために行動しているとしている。ハマスのイスラエル南部奇襲とイスラエルの報復攻撃開始の翌日の2023年10月8日にヒズボラがイスラエル北部にロケット弾を撃ち始めて以降、両者の敵対行為は着実にエスカレートしている。

レバノン南西部でも軍を展開

IDFは8日朝、第146師団の予備役がレバノン南西部で「限定的かつ局地的で、標的を絞った作戦活動」を開始したと発表した。

この師団は、9月30日の地上侵攻開始以来レバノン南部の中央地域と東側地域で活動しているイスラエル陸軍の三つの常備軍に加わった。これにより、現地に配備されている兵士の総数は1万5000人を超えたと報じられている。

IDFは、部隊がレバノン側の国境沿いの村マルーン・アルラスにあるヒズボラの「戦闘施設」だとする場所を制圧したと発表。オリーブ畑の中に設置されたロケット発射装置や、集合住宅の内部にある武器や装備品を撮影したものだとする複数の画像を公開した。

ドローン映像には、地上侵攻の当初の標的だった近隣のヤルーン村が広範囲にわたり破壊されている様子が映っていた。

こうした中、国連のレバノン特別調整官と国連平和維持軍の責任者は共同声明で、この紛争による人道的影響は「壊滅的というほかない」と警告した。

レバノン政府によると、約120万人が過去1年間に家を追われた。18万人近くが国の承認を受けた避難民センターに身を寄せている。

加えて、20万人以上のシリア難民を含む40万人以上が内戦で荒廃したシリアへ逃れている。 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のトップはこの状況を「悲劇的な不条理」だと評した。

国連世界食糧計画(WFP)は数千ヘクタールの農地が焼かれたり放棄されたりしており、「食料自給を継続するためのレバノンの能力が非常に懸念される」と指摘した。

ヒズボラに新たな打撃か

IDFは8日、ヒズボラが強い存在感を示しているベイルート南郊と、レバノン国内の複数地域にあるヒズボラの標的に対し、戦闘機を使って新たな空爆を実施したとした。

IDFはこの攻撃に先立ち、前日7日のベイルートへの空爆でヒズボラ本部のスハイル・フセイニ司令官を殺害したと発表した。

この主張についてヒズボラはコメントしていない。殺害が事実であればヒズボラにとって、イスラエルによる一連の深刻な打撃における新たな損失といえる。同組織の指導者ナスララ師や司令官らのほとんどは、直近の同様の攻撃で殺害されている。

ナスララ師のいとこにあたるヒズボラ幹部サフィディン氏は、ナスララ師の後継者として同組織の指導者になると広く予想されている。イスラエルは3日のベイルート空爆でサフィディン氏を標的にしていたと報じられており、この日以来、同氏の消息は明らかになっていない。

ネタニヤフ首相とIDFはサフィディン氏が殺害されたと主張したが、IDFのダニエル・ハガリ報道官は8日夕、同氏の死亡を確認できていないと明らかにし、IDFが作戦の結果を調査していると付け加えた。

ヒズボラのナンバー2とされるナイム・カセム師は8日、非公開の場所からテレビ演説を行った。その中で、ここ数日のイスラエルへの攻撃に言及し、ヒズボラの指揮統制は「強固」で「空席はない」と述べた。

「我々はイスラエルを傷つけている。そういう時間を長く続けていく。レジスタンスのミサイルの射程圏内には数十もの都市が含まれる。我々の能力に問題がないことを、あなた方に保証する」

ただ、ガザでの戦争が終わらない限りイスラエルへの攻撃はやめないという従来の主張は繰り返さなかった。ヒズボラ側が、イスラエルとの戦闘停止の条件はガザ戦争終結だと言及しなかったのは、今回が初めて。

「(レバノン議会の)ナビ・ベリ議長が停戦に向けて行っている政治的努力を我々は支持する」と、カセム師は述べた。

「停戦が実現すれば、外交でほかのすべての詳細を検討することができる」

これがヒズボラの立場の変化を意味するものなのかは分からない。

カセム師のテレビ演説は、イスラエルのハイファ湾やガリラヤ地方に向けて100発以上のロケット弾が発射される中で行われた。

IDFによるとロケット弾の大半は迎撃された。深刻な人的被害はなかったという。

ハイファは6日夜、2006年のイスラエルとヒズボラの最後の戦争以来となる直接攻撃を受けた。

(英語記事 Netanyahu warns Lebanon of 'destruction like Gaza'

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c4g57k17z9qo


新着記事

»もっと見る