社会問題をエンタテインメント映画に
韓国映画のこうした躍進には、ひとつの契機があった。それが1999年の映画振興法の改正と、それにともなう映画振興委員会(KOFIC)の発足である。これによって国が多額の製作費助成をするなど自国映画を積極的にバックアップする体制が整い、順調に成長を続けていった。映画産業の伸長は、自国映画の質・人気の高まりにともなったものである。
この1999年とは、2000年代以降の韓国映画界にとってのメルクマールとなる作品が公開された年でもある。それが、日本でも大ヒットした『シュリ』だ。この作品は、韓国の諜報員と北朝鮮のスパイの関係を描きながらも、そうした題材を娯楽映画に昇華させていた。つまりシリアスな国際政治や社会問題をエンタテインメントにしていたのである。この点こそが、現在まで続く韓国映画のもっとも大きな特徴だと言えるだろう。
こうしたアプローチは、近年も色濃く現れている。たとえば、南北問題や朝鮮戦争を扱った作品では、過去に『JSA』や『トンマッコルへようこそ』などもあったが、昨年は『ベルリンファイル』が大ヒットした。ベルリンで活動する北朝鮮と韓国の諜報員を中心に、CIA、モサド、イスラム原理主義の策謀も絡むスパイアクション映画である。
2012年に公開された『ハナ~奇跡の46日間』も、分断された南北を題材とした作品だ。しかも、映画の舞台は1991年の日本である。千葉で開催された世界卓球選手権に、韓国と北朝鮮が統一チーム・コリアとして参加した実際の出来事を映画化したものだ。当初はギクシャクしていた南北の女性選手は、徐々に打ち解けてひとつのチームとしてまとまり、8連覇中の強豪・中国に挑んでいく。事実をもとにした南北問題を、スポ根エンタテインメントに仕上げたのである。
韓国の国会をも動かした映画
また、韓国といえば格差社会化が深刻だ。96年に韓国は「先進国クラブ」と言われるOECD(経済協力開発機構)に加盟したが、翌97年から98年にかけて深刻な財政危機に陥った。このときIMF(国際通貨基金)から経済支援を受けたものの、財閥解体や新自由主義経済への移行にともなう構造改革によって、格差社会化が進行した。一昨年の大統領選挙でも、選ばれたパク・クネや対抗馬の候補者は、積極的に「経済民主化」(経済格差の解消等)を訴えたことは記憶に新しい。
現在も続く格差状況は、現代を舞台とする映画では当たり前のように描かれる。たとえば2010年公開の『ハウスメイド』は、富豪の家で働くメイドを描いた物語だ。実はこの作品は、まだ韓国が貧しかった1960年の映画『下女』のリメイクである。それから50年後、格差社会を正面から描く作品として生まれ変わったのである。