こうした90年代まで、韓国映画はほとんど目立つことはなかったが、2000年代に入り娯楽映画で大躍進を続けているのである。それは他国に類を見ない現象だと言えるだろう。もちろんなかにはキム・ギドクやホン・サンスのような芸術映画として評価された存在もいるが、先のふたつの流れでいえば、明らかに韓国映画はハリウッド映画に寄ったものである。実際、作品にはハリウッドの娯楽映画の影響も色濃くうかがえる。それらは決して剽窃などではなく、日本的に言えば“本歌取り”と呼ぶべき作品だ。
たとえば、2012年に公開されて大ヒットした『私のオオカミ少年』は、少女とオオカミに育てられた少年の関係を描いた作品だった。観るとすぐ気づくが、この作品の元ネタとなっているのは『シザーハンズ』(1990年)である。普通の少女が異者と出会ってともに成長するというプロセスは同じだが、舞台を60年代の韓国に設定し、キャラクターも変えることでまったく別の作品になっている。
他にも、ハリウッドのヒット作をヒントとした韓国映画はとても多い。『オーシャンズ11』(あるいは『オーシャンと11人の仲間』)に対して『10人の泥棒たち』(2012年)、『スピード』に対してバイク映画の『クイック』(2011年)、西部劇の『続・夕陽のガンマン』に対して戦時中の中国を舞台とした『グッド・バッド・ウィアード』(2008年)などがそうだ。また2012年に公開された『ザ・タワー 超高層ビル大火災』は、往年の名作『タワーリング・インフェルノ』(1974年)の正式なリメイク作である。現代の韓国を舞台とするだけでなく、74年には不可能だった映像表現をCGをふんだんに使って可能としている。
これらの作品にあふれているのは、徹底的に観客を満足させようとする貪欲なサービス精神である。アクション映画では二重三重に畳み掛け、人間模様を描く映画でも喜怒哀楽が全編に盛り込まれている。娯楽大作に挑むとどうしても一本調子になりがちな日本映画は、確実に学ぶ必要があることである。
日中韓で活性化する国際共同製作
韓国映画の次なる目標は、世界進出である。そこで目指されているのは、東アジアと北米だ。
東アジアへの進出は、映画に限らず韓国経済にとってはなくてはならないものだ。そもそも韓国は、中国と日本という世界トップクラスの経済大国に挟まれた場所に位置する。人口にともなう内需でこの両国に比肩することは難しく、いかに経済的な連携を取るかが韓国経済の命運を握っているとも言える。