社会問題を描き、それによって社会を大きく動かした映画という点では、2011年に公開された『トガニ 幼き瞳の告発』の存在は見逃せない。この作品は、実際に起こった児童福祉施設での虐待を題材としている。しかし、その内容に日本の社会派映画にありがちな辛気臭さはなく、恐ろしいホラーエンタテインメントとなっている。監督のファン・ドンヒョクは、筆者のインタビューに対し「韓国では社会性を押し出すことが、商業性を高めることにもつながる」と明言した。結果、公開時から大きな反響を呼んで大ヒットとなり、それを受けて警察は再捜査に乗り出し、国会は法改正をおこなうほどの動きとなった。
韓国は、休戦中とは言え戦時下にある状況が続いており、北朝鮮との武力衝突もたびたび生じている。若い男性には2年ほどの兵役も義務化されてもいる。国内経済も、IMFというトラウマを抱えながら、格差社会化とサムスンなど一部企業に一極集中した経済状況に不安を抱えているひとは多い。格差社会化によって、凶悪犯罪も増加した。こうした社会問題をしっかりと反映させたエンタテインメントの韓国映画が創られ続けているのである。
ハリウッド映画に学ぶ貪欲な姿勢
語弊を恐れずにいえば、90年代までの世界の映画潮流は大きく二分されていた。ひとつがハリウッドの娯楽映画。それに対してヨーロッパ諸国やアジアの映画は、ヨーロッパの三大映画祭を中心とした芸術映画を中心に推移してきた。つまり、娯楽映画と芸術映画という潮流である。
もちろん、ジャッキー・チェンの存在や、タランティーノがカンヌで絶賛されて出世した例などもあるので、そのふたつは必ずしも明確に分かれるものではない。だが、評論家にとっても観客にとっても、ある程度は主流(ハリウッド)と傍流(非ハリウッド)という意識が共有されていた。
90年代に登場したアジア映画──たとえば、台湾のホウ・シャオシェン、中国のチェン・カイコーやチャン・イーモウ、香港のウォン・カーウァイ、イランのアッバス・キアロスタミ、そして日本の北野武なども、やはり芸術映画としてヨーロッパの映画祭で評価されて注目された存在だ。