2024年11月22日(金)

教養としての中東情勢

2024年10月19日

 だが、アラブ系に肩入れし、イスラエルの攻撃を抑えようとすれば、今度はより大きな票田のユダヤ系の反発を食らい、ユダヤ系票を減らしかねない。ハリス氏にとっては深刻なジレンマだ。

 若者についても同様だ。全米の大学ではイスラエルに肩入れするバイデン政権への非難が続いており、ハリス氏は若者票の獲得にも苦慮している。

 ネタニヤフ首相はこうした大統領選の微妙な情勢につけ入ってバイデン政権を揺さぶっている。同政権としては選挙が終わるまで、「イスラエルには戦闘を激化させないでほしい」というのが本音。だが、ネタニヤフ氏はレバノンの親イラン組織ヒズボラとのバイデン大統領の停戦調停をぶち壊してレバノンに侵攻。ガザ攻撃を再び激化させてバイデン政権を翻弄し続けている。

米政権を手玉にとるネタニヤフ

 バイデン政権の最大の懸念はイスラエルが米国の想定をはるかに上回るようなイラン攻撃に出るのではないかという点だ。イランはヒズボラの指導者ナスララ師やガザのイスラム組織ハマスの指導者ハニヤ氏がイスラエルに殺害された報復として10月1日、約200発の弾道ミサイルをイスラエルに撃ち込んだ。ほとんどが撃墜されたものの、イスラエルの軍事基地などが損傷を受けた。

 イスラエルは報復を宣言し、攻撃の標的を絞りつつある。バイデン氏は「核施設や石油関連施設」への攻撃を支持しないと表明し、ネタニヤフ首相に自制を働きかけてきた。しかし、ネタニヤフ氏の政敵でもあるベネット元首相が「イランの核施設を破壊する絶好の機会」と発言したように、世論は核施設への攻撃支持に傾いている。

 ネタニヤフ氏と近いトランプ氏も「まずは核施設を攻撃するべきだ」とし、抑制的な攻撃を求めるバイデン政権をけん制している。核施設への攻撃はイランにとっての「レッドライン(超えてはならない一線)」で、イランが再び反撃するのは確実。また石油関連施設への攻撃でも反撃する可能性が強く、報復の連鎖で「中東大戦」に突入する恐れがある。

 イランの石油関連施設はペルシャ湾岸に集中しており、攻撃を受ければ、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)の石油輸出にも影響が出かねない。イランはこれまで、攻撃されれば同湾の出入り口のホルムズ海峡を封鎖すると警告してきたが、そこまでしなくてもエネルギー価格が急騰するのは必至だ。

 そうなれば米国のガソリン価格も跳ね上がり、インフレの再燃でハリス氏には深刻な打撃となるだろう。まさに「オクトーバーサプライズ」だ。

 バイデン政権はネタニヤフ氏をなだめるため、イスラエルに急きょ、「高高度防空ミサイル」(THAAD)を供与。同システムはすでに米軍の要員100人ともにイスラエルに到着、配備された。

 これに先立ち、ネタニヤフ氏はバイデン大統領と数カ月ぶりに電話会談。ワシントン・ポストの特ダネによると、同氏はこの会談で、核、石油関連施設は避け、軍事基地などを中心に攻撃することを伝えたという。


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