ノルウェーを始めとするTAC=漁獲量が当たり前の国々の場合は、TACの増減で漁獲される前の魚の相場が上下します。もちろん、たくさん獲れた方が漁師としては気持ちが良いと思いますが、単価の下落により肝心の水揚げ金額が少なくなってしまっては意味がありません。「名を捨てて実を取る」かどうかなのです。
水揚げが減っても、水揚金額は増えるというケースは、漁業先進国のノルウェーでも同じように起こっています。2009~2011年のノルウェーでのニシン漁獲は約100万トンから60万トンへと40%も減少しました。しかし、単価が約2倍に上昇し、水揚げ金額自体は22%増の約500億円(31億ノルウェークローネ)と上昇したのです。これなら漁獲の減少に対し漁業者に不満があるはずはありません。
尚、TACが減らされる際には、小型の漁船群ほど削減率が低くなり保護されています。科学者が資源保護のために控えめなTACの勧告をすると、困るのは魚価が上がって高い魚を買わざるを得ない輸入業者であり、その魚を買う日本の消費者にも影響があるのです。水揚げ「数量」の減少を強調する日本と異なり、同じ水産業界紙においても、ノルウェー水産物審議会(NSC)は2013年の輸出を金額で過去最高の610億クローネ(約1兆円)と成果を「金額」で表現しています。
同国は2012年比で17%の増加と成長を続けています。一方で数量は230万トンと前年比で9%減少しているのですが、特に言及していません。漁業に取って重要なのは数量なのか金額なのか? いうまでもなく金額の方なのです。ちなみにノルウェーのエリザベス・アスペーカー漁業大臣は2060年までに、ノルウェー水産物の輸出金額は、記録を更新した2013年の10倍の規模、つまり約10兆円になる潜在力を持っていると2013年1月にコメントしています。
「大型漁船は乱獲につながる」?
規制すべきは「漁獲量」
日本の漁船は、海外の漁船に比べて概して小さいと言われています。特に漁船の大きさはトン数で制限されているため、極力居住空間を狭めて、漁獲能力を高めた漁船を建造してきました。漁船で働く人の環境より、1匹でも魚を多く獲れる船にしてきたのです。その劣悪な環境のために、漁業者が減ってきたということは否めないと思います。
ここで、漁業先進国と日本の根本的な考え方の違いについてご説明しましょう。日本では、漁船の大型化⇒漁獲圧力の上昇⇒乱獲という構図になってしまうために、漁船の大型化を懸念します。一方でノルウェーを始めとする国々の漁船は大型化しています。大型化しても資源が減少する問題は起こらず、むしろ安定しています。そして、儲かっているため大変豪華で漁船とは思えない船が増えています。漁業は高収入と、労働環境の良さで若者を惹きつけるのです。