2024年11月19日(火)

プーチンのロシア

2024年11月19日

鉄鋼は制裁の成功例

 他方、『ロシア連邦通関統計集』をつぶさに検証すると、国際的な制裁下でロシアが非常に苦労していると思しき分野も目につく。鉄鋼などは、その代表例ではないか。

 鉄鋼には、加工度の低い「半製品」と、それをさらに仕上げた「完成鋼材」(具体的には鋼板、条鋼、鋼管など)とがある。ロシア鉄鋼業の特徴は、輸出に占める半製品の比率が異常に高いことであり、ウクライナ鉄鋼業と並び、世界の中で特異な存在となっていた。国内で鉄鉱石と原料炭を産出するがゆえ、そのような商売が成り立ったわけだが、より付加価値の高い完成鋼材の輸出を増やしていくことが、ロシア鉄鋼業の積年の課題となっていた。

 しかし、ロシアがウクライナに侵攻を開始すると、EUは早くも22年4月から、ロシア産完成鋼材の輸入を禁止した。その結果、図9に見るとおり、22年にロシアの対欧州・非友好国向け鋼板輸出は激減し、23年にはゼロになった。鉄鋼業では、中国やインドが世界的巨大プレーヤーなので、ロシアが完成鋼材を中・印などのアジアに回すのは至難の業である。

 鋼板は、EUの制裁が奏功し、欧州向け輸出減がそのままロシア・トータルの輸出減に繋がったという、明確な成功事例である。その一方で、図10に見るとおり、ロシアは大量の鉄鋼半製品を相変わらず輸出し続けており、これはロシアにとってまったく不本意な姿である。

産業の高度化・高付加価値化が頓挫

 ロシアの主要輸出品を見渡してみて、ウクライナ侵攻後の落ち込みがきわめて激しいのが、図11に見る木材の丸太である。ただ、これはロシア当局が意図的に輸出を削減した結果である。

 ロシアは長年にわたり、丸太を未加工なまま輸出するのではなく、製材に加工した上で輸出することを目標に掲げており、22年からは丸太の輸出を基本的に禁止することが前の年から決まっていたのだ。図11に見る22年以降の激減は、その措置が発効したことによるものである。

 ただ、それでは22年以降に実際に製材の輸出が拡大したかと言えば、図12に見るように輸出は落ち込んでいる。ここでも、欧州・非友好国への輸出減が、ロシア・トータルの輸出減へと直結している。

 最後に、ウクライナ侵攻後に、壊滅的な輸出減に見舞われているのが、図13に見る乗用車である。2000年代に入り欧米日韓の自動車メーカーによるロシア現地生産が進展し、近年では多くの外資メーカーがロシア工場から周辺国への輸出も手掛けるようになっていた。とりわけ、ロシア主導の「ユーラシア経済連合」に加盟するカザフスタンやベラルーシ向けの輸出は、外資メーカーにとりロシア進出に伴って付いてくるオマケのようなものであり、それなりに旨味があった。

 ところが、ロシアがウクライナ侵攻を開始したことで、外資メーカーは相次いでロシアから撤退、ロシア工場から周辺国への輸出も激減したというわけである。ロシア自動車産業の水準は、一気に20年くらい後退したと言わざるをえない。ロシア経済はそれなりに痛みを負っているのである。

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