原油は「東方シフト」の典型例
以下では、注目される輸出品目をいくつかピックアップし、図2、3と同じ様式で輸出動向を示してみたい。価格変動の影響を排除するため、基本的に数量ベースの輸出動向を図示することにする。
まず、ロシアにとっての最重要品目である原油の動きを、図4に示した。ただし、上述のように、『ロシア連邦通関統計集』は23年年報から原油の輸出データを掲載しなくなってしまったので、図4の23年の数字は筆者による推計値である。統計が正式に発表されていないとはいえ、A.ノヴァク副首相がエネルギーの輸出実績を断片的に語るケースはあり、またミラーデータ(ロシアの貿易相手国側の輸入データ)も利用可能なので、それらを突き合わせて図4のような数字を弾き出した。
図4の原油ではまさに、欧州・非友好国への輸出減が、アジア・友好国への輸出増によって補われている。結果的にトータルの輸出量をほぼ維持できており、これがロシアの輸出パフォーマンス全体の基調を決定付けている。
図5に見る基礎的な石油化学品の一つであるプロピレンの輸出動向も、今のロシアで生じている「東方シフト」の典型例だ。
肥料や食料は盤石
一方、図6に見る窒素肥料は、かなりパターンが異なる。やはりロシアは輸出量をキープできているが、友好国だけでなく非友好国への輸出も相変わらず盛んであり、輸出相手の地域構造はあまり変わっていない。肥料のようなグローバル食料安全保障にかかわる品目は、制裁の対象にしないというのが国際的なコンセンサスであり、米国政府に至ってはロシア産肥料の輸入を奨励する立場を示しているほどである。
関連して、ロシアの食料輸出も非常に好調であり、図7の穀物、図8のひまわり油ともに侵攻後にかえって拡大を遂げている。豊作の賜物とはいえ、苦境に喘ぐウクライナから市場を奪ったものであることを考えると、いたたまれない気持ちになる。なお、図7、8の輸出先として「不明」が多いのは、国際的なトレーダーに売り渡して、その後の最終的な仕向け地が不明であるパターンが少なくないからだろうか。