2025年1月26日(日)

令和のクマ騒動が人間に問うていること

2024年12月17日

 「地域のクマ対策は誰がやるのか。行政の職員や、知床財団の方々もいます。でも、その人たちだけがやることなのでしょうか。地域に根差す企業や住民が一体となって、自分たちの力で自分たちの地域を守っていく必要があると私は思います」

 20年5月から始動したクマ活では主に、草刈り・ごみ拾い・普及啓発の3つの活動に取り組んでいる。

 活動のメインは、5~6月頃に行う草刈りだ。人の背丈も超えるような草やぶが市街地のすぐそばにあると、クマも身を隠しやすく、より危険な形で人と遭遇するリスクが増えるからだ。

 また、ホテルの宿泊者を中心に、ヒグマやクマ活に関する普及活動も行っている。クマが生息していない地域から来る人にとって、知床のヒグマはどういう動物で、どういう存在なのか、丁寧に伝える必要があると村上さんは言う。

 「大自然の象徴でもあるヒグマの存在を身近に感じられることも、知床の魅力の一つです。ヒグマは積極的に人を襲うような動物ではありませんが、人間が不用意に近づいていい動物ではありません。過剰に恐れることなく、ヒグマの『怖さ』を知りつつも、『正しく恐れる』ことが必要だと思います。

 ヒグマが身近にいることを「恐怖」ではなく、「魅力」と捉えてもらうことが観光業として大切なことです。また、ヒグマとの共存と地域の安全のために、草刈りやごみ拾いなどによって人間とクマとの間に境界線を作っているからこそ、これからも事故を防ぎ、お客様が安心できる環境を守れるのだと思います」

最初から諦めてはならない
地域の変革に必要なこと

 ゴミプロもクマ活も「この地域のために何ができるか」「この地域のために頑張ろう」という一住民としての想いが形になったものだが、村上さんにはもう一つの狙いがある。

 「東京などの都市部からお越しになった方々が、私たちの活動をどう感じられるか。『自分たちには関係ない』ではなく、『自分たちの住む地域では何ができるのか』と考えるためのきっかけを与えることができたら、世の中がもっと素敵になると思うんです」

 いざ町にクマが出てきてしまうと、人間にできることは限られている。だからこそ、「町に出てくる前にやれることをやらなければいけません。何事においても『仕方ない』と言われることが心底悔しいです。ヒグマが町に出てくることも、駆除されることも、いつか大きな事故が起こってしまうかもしれないことも、『仕方ない』で済ませてはいけないと思っています。最初から見て見ぬふりをしたり、諦めてしまっては、状況は何も変わりません」と言い、村上さんはこう続ける。

 「確かに、知床には観光業があるので若い人も企業も多いですが、あくまでそれは特色の一つです。『いつ事故が起きるか分からない』という状況は、ほかの地域と変わりません。自分が住む地域と向き合い、『諦めない心を持って周囲を巻き込む』という、地域を変えるための根本は、どこの地域でも同じなのだと思います。

 地域で危機感を共有して、専門家の方に学んで、明日の自分に何ができるか、10年後どんな地域にしたいかを考える。なりたい未来に向けて、私たちはやるべきことをやるのみです」

後列に写るのは地元漁師の方たち。住民同士の「自分事化」の輪が広がる(HARUKA MURAKAMI)

 責任と覚悟、そして屈託のない笑顔と前向きさが印象的な村上さんの挑戦はこれからも続いていく。

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Wedge 2024年12月号より
令和のクマ騒動が人間に問うていること
令和のクマ騒動が人間に問うていること

全国でクマの出没が相次ぎ、メディアの報道も過熱している。 しかし、クマが出没する根本的な原因を見落としていないだろうか。人間はいかに自然と向き合い、野生動物とどう生きていくべきか。人口減少社会を迎える中、我々に必要とされる新たな観点を示す。


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