2025年1月10日(金)

Wedge REPORT

2024年12月8日

「お金は出すけれども、口は出さない」
2022年11月23日インタビュー

 岡山県出身の私にとって、隣県にあるプロ野球チーム「広島東洋カープ」は、うらやましい存在だった。自分の町にも「プロチームが欲しい」、そして「子どもたちに夢を」というのが、ファジアーノを立ち上げたときの思いだった。同じような思いを持った人々が全国にいて、今や40都道府県にJリーグのクラブができた。

 残り7県にもサッカーのクラブは存在し、47都道府県にJリーグクラブが誕生する日もそう遠くないだろう。一部の大都市だけではなく、地方にもプロクラブをつくることができたことは、この30年の大きな成果だ。

 その背景にある、「お金は出すけれども、口は出さない」という各クラブのオーナーの姿勢が変わっていないことが大きい。

 例えば、各クラブが運営するアカデミー(編集部注:若手選手の育成を目的としてサッカークラブが設けた組織)は赤字で運営されていることがほとんどだ。それでも、「日本のサッカー人材を世界レベルにする」という目標のもと、育成が行われている。地方の子どもたちにとっては、都会に行かずともプロ選手になる、または世界に出るための第一歩になった。

 私が東京から帰郷して印象的だったのが、中小企業の経営者の方々の姿勢だ。この30年、日本企業には逆風が吹き続け、岡山の地方企業にとっても、なおさら厳しい状況が今も続いている。

 それでも、「社員や地域のためになるのであれば、スポンサーになる」という経営者に何度も会ってきた。「スポンサーは大手企業がなるもの」という意識に変化が起きたことは、クラブ運営がビジネスとして回るための大きな助けとなっている。

 2022年10月23日、J2リーグのファジアーノ岡山と東京ヴェルディの試合が味の素スタジアム(調布市)で行われた。観客の中に20~30代の岡山県出身者が多くいたことは非常に励みになった。同時に、地元のクラブとして着実に根付いていることを実感することができた。Jリーグのクラブにとって「地域密着」とは、今後も「不変」のミッションだ。

価値を高めるために必要な
最大市場を見据える目

 地域のクラブとして定着してきた一方で、次の30年に向けては、成長戦略が必要になる。つまり、コンテンツとしての価値を高めるための「変化」だ。

 私がJリーグの専務理事として行ったのが、クラブの上場を可能にする仕組みづくりだ。米国で新興の電気自動車(EV)企業が新規上場(IPO)することで数兆円の時価総額になることがあるように、売上高や利益ではない「非財務的価値」がクラブにもある。

 ポルトガルやトルコの1部に所属するクラブは、売上高は50億円強だが、時価総額はその3〜4倍なのがその証左だ。例えば、自前のスタジアムを持ちたいと考える場合には、上場は有効な手段になる。決して簡単なことではないが、現状維持は衰退の始まりであり、上場はクラブの価値を高め続けるための大きなモチベーションになるはずだ。

 もう一つは、海外市場の開拓だ。アジア市場の魅力を高めたいが、圧倒的な存在である欧州市場とは現状、大きな開きがある。高額な移籍金が注目されがちだが、年俸そのものは欧州のトップリーグでも平均数億円であり、ピークを過ぎたビッグネームや将来化けそうな若手選手の獲得であればJリーグのクラブも捻出できないことはない。こうした選手が5人、10人と集まれば、コンテンツとしての質や魅力が高まる。

 米国のプロサッカーリーグ(MLS)に欧州の有名選手が移籍することが少なくない。居住環境の良さなどが選手にとっては魅力的である一方で、スタジアムなどプレー環境の面では、Jリーグが上回っていると、何度も現地に足を運んで感じた。やはり、チャンスはあるはずだ。

 2016年、スペインの超名門クラブのレアルマドリードと鹿島アントラーズの試合は、内容も濃く視聴率は20%近くに達した。サッカーに関わる者として誇りだった。世界クラブ選手権の毎年の開催が難しくなった今、荒唐無稽かもしれないが、1つの理想は、Jリーグ優勝クラブが欧州チャンピオンズリーグに出場することではないか。

 さすがにそれは無理でも、小規模な大会への出場は狙いたい。選手は海外に出られるが、クラブにもそういう機会が必要だ。より多くの国内の人に目を向けてもらうために、グローバルな視野でサッカーをとらえる発想が必須と考えトライしていた。クラブ自身が世界との差を体感できる場があれば、関心度とサッカーのレベルを格段に上げるだろう。


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