クラブにもJリーグにも
不可欠な〝ストーリー〟づくり
「ストーリーづくり」についても触れておきたい。ファジアーノ岡山は09年にJリーグに加盟した。地元への浸透を目指してメディア戦略など各種施策を試してきたが、最も効果的なのが「ストーリーづくり」だった。
例えば、地元テレビ局で試合のハイライトを放送してもらう以上に効果的だったのは、選手のバックグラウンドを知ってもらうことだった。出身地や出身校など、ちょっとした情報やストーリーが見ている人に親近感を与え、スタジアムに足を運んでもらえるきっかけになることが分かった。
そうした意味で、お互いがJ2に所属していた時には、ファジアーノ岡山とカマタマーレ讃岐の試合を「瀬戸大橋ダービー」と呼ぶことでスポンサーを巻き込み、地元をあげて盛り上がるイベントもあった。J1の有名なところでは、FC東京と川崎フロンターレの「多摩川クラシコ」もそうだ。地域だけではなく、全国にも広げられるようなストーリーをつくることができれば、それこそ全国的なイベントにすることができる。
スポーツが数多くある中で、また、娯楽のバリエーションが増えていく中で「サッカーならではの魅力とは何か」という問いの確たる答えは、未だに誰も見つけられていない。日本で親しまれている相撲や野球などのスポーツは、興味のない素人にも「分かりやすさ」がある。一方でサッカーは、ゴール前にボールが運ばれれば漠然と「チャンスだ」と感じるが、それ以外のプレーはなかなか説明がしにくい。せっかく相手の陣地にボールを運んでも、再度自陣から組み立て直すバックパスの意図などは、特に伝わりづらいだろう。
ただ、長年サッカー界に身を置く中で私が感じているのは、ギリギリまで溜め込んだ後にくる「感情の爆発」が最大の魅力ではないか。得点が入るまでに時間を要することや、どれだけ素晴らしいゴールでも1点ずつしかスコアが入らないことなど、もどかしさは否めない。
だが、だからこそ得点が入った時の嬉しさは一入で、見ず知らずの隣のサポーターと抱擁したりハイタッチしたりする姿をよく目にするのもこのためではないか。
こうしたサッカーの特徴との関連性があるかは不明だが、Jリーグの特徴の一つに、観客数に占める女性の割合が多いことが挙げられる。欧州では10%ほどにとどまるが、日本では40%弱まで割合が上昇する。女性ファンにいかに興味を持ってもらえるかについても各クラブは真剣に検討する必要があるだろう。
スタジアムの建設
地元への恩返しと次なる夢
社会人1年目の1993年にJリーグが開幕した感動は今も忘れることはない。そして、2006年からクラブ運営に携わって16年。
私自身もそうだが、一度、東京など都会に出た人材が地元に戻って働く場の受け皿になれたと自負している。
地元で働く優秀な人材を引き抜いたりすれば軋轢が生じるが、都会の人材であればそうした問題は起こりにくい。子育てや介護など、ライフステージの変化に合わせ「そろそろ地元に帰って働きたい」と、東京の大企業で働いていた人材が何人もファジアーノに入社してくれた。こうした「Uターン」は、他のクラブでも起きているはずだ。
私自身、浪人中に父親を亡くしたことで、大学入学後は、運動会ア式蹴球部(編集部注・サッカー部のこと)の入部を断念せざるを得ず、併設された準体育会でプレーしながら、地元の方々の支援によって何とか大学を卒業することができた。やはり、地元に恩返ししたいという思いが心から離れることはなかった。
ファジアーノ岡山がJ1に昇格したあかつきには、クラブも応分の負担をしたうえで、スタジアムを建設したい。それが、私が目指す次の地域活性化であり、地元への恩返しだ。