自分らしくいられる場所
『ニューノマド 新時代の生き方』フェリクス・マークォート(著)、江口泰子(訳)早川書房 2860円(税込)
「移民」と聞けば、自国を捨てざるを得ないといったニュアンスが感じられる。だが、「ノマド=遊牧民、定住しない人」と聞けば、積極的、主体的なものに感じられる。国籍は米国だが、フランスで育った筆者がそんな人々にインタビューをしていく。「女らしさ」を求められる日本に息苦しさを感じてアフリカで自分らしく生きる日本人女性も登場する。他国で暮らす苦労は並大抵ではないが、自分自身のことも含めて新しい発見を得ることができる。それはとても素晴らしいことだ。ただ、自分の生まれた国が、自分にとって、いや誰にとっても生きやすい国であればもっといいのにと思う。
日本語の深淵
『ことばの番人』髙橋秀実 集英社インターナショナル1980円(税込)
『古事記』にも記載がある校正の存在。本書は、文章の誤りを正すその仕事について述べたノンフィクションだ。『言海』を270点所有する校正者への取材をはじめ、漢字の起源や日本国憲法の誤植にも触れ、校正について詳しくなると同時に、自分が信じていた文字というものがわからなくなってくる。最終的に著者は、AIの校正を通して、校正はさらなる校正を必要とする、終わりのない導きであることを痛感する。11月13日、著者の訃報。心よりお悔やみ申し上げます。
幕末、二人の蘭方医
『蘭医繚乱 洪庵と泰然』海堂 尊 PHP研究所 2530円(税込)
かつて多くの人々を死に至らしめた天然痘。1980年に根絶された背景には人類初のワクチンとされる種痘の広がりがあった。日本で種痘の普及に尽力した一人が、適塾(現大阪大学)を設立した緒方洪庵だ。予防医学の概念がない幕末での普及は容易ではなかったが、効果を地道に説いていった。一方、佐藤泰然が和田塾(現順天堂大学)を設立したのも、偶然にも適塾と同じ1838年だ。同時期に蘭医学の発展に寄与した二人の人生を、時代背景や史実とともに描いた歴史小説。