2025年1月7日(火)

教養としての中東情勢

2025年1月3日

 トランプ氏はサウジアラビアなど石油豊富なペルシャ湾との関係を重視しがちだ。だが、近視眼的だとする向きは多い。

 シリアは地政学的に中東の要衝であり、ここが安定しないと中東全体が不安定になってしまうからだ。シリアの隣国のイラクにも約2500人の米軍が駐留しているが、2026年までには撤退する計画だ。シリアの部隊も撤退すれば、「力の空白」が拡大することになる。

 シリア暫定政府は国連や米国からテロ組織に指定されている「シリア解放機構」(HTS)のジャウラニ指導者が権力を握っているが、安定した民主主義国家を樹立できるかは不透明。米部隊が撤退すれば、ISの台頭や内紛の歯止めを失い、混迷が深まる恐れが強い。

カギ握るサウジアラビアの支持

 トランプ氏に大きく左右されそうなシリアの将来だが、新政府が順調に船出できるかのもう一つの焦点はアラブ世界の支持をいかに獲得できるかだろう。国際テロ組織アルカイダの分派組織の指導者だったジャウラニ氏は首相や外相、国防相に自らに近い人物を任命し、暫定政府の骨格人事をほぼ終えた。

 また、アサド政権を打倒した数十に上る反体制派の武装組織を解散させ、国防省の傘下に統合することでも合意した。ジャウラニ氏は身だしなみにも気を遣い、戦闘服や宗教的な衣服をつけるのをやめ、スーツの着用を始めた。テロリストから政治的指導者へ変身したことをアピールするのが目的だ。

 こうした過激派からのイメチェン効果もあり、トルコやヨルダン、カタールなどの外相らがダマスカスを訪問、相次いで同氏と会談した。暫定政府のシェイバニ外相もアラブ首長国連邦(UAE)のアブドラ外相と電話会談した。今後、新生シリアがアラブ世界から復興援助を受けられるかは、石油大国サウジアラビアの支持を獲得できるかが大きなカギになるだろう。

 そのためには何よりもシリア国内の政治的安定が最優先だ。だが、ダマスカスなどで治安部隊と前政権支持者のデモ隊が衝突、北部ではトルコに支援された「シリア国民軍」(SNA)と米国が後ろ盾となっているクルド人民兵組織「シリア民主軍」(SDF)が激戦を展開するなど国内の反目は依然収まっていない。米軍がいなくなれば、内紛の調停役も消えてしまう。


新着記事

»もっと見る