2025年1月7日(火)

教養としての中東情勢

2025年1月3日

明暗分けるイスラエルとイラン

 こうした中で絶好調なのがイスラエルのネタニヤフ首相だ。イスラエルはアサド政権崩壊の混乱に乗じ、シリアから占領したゴラン高原で、停戦協定を反故にして国連監視の非武装地帯(DMZ)を掌握し、シリア領内に進軍。ダマスカスを望むヘルモン山の山頂の一部も制圧した。首相は12月17日、山頂のシリア側に立ち、安全が保障されるまでイスラエル軍がこの場所に駐留すると言明してみせた。

 「ネタニヤフはシリアが政権交代の混乱にある中、“漁夫の利”を得る形でシリア領内にまで軍を侵入させた。半永久的に駐留し続けるのではないか」(ベイルート筋)。首相はガザ戦争でイスラム組織ハマスを支援してきたイランを武力で沈黙させ、レバノンの親イラン組織ヒズボラの指導者を殺害するなど壊滅的打撃を与えたが、これらの勝利が大胆な行動を後押ししている格好だ。

 ガザ戦争でも、イスラエル軍はハマスの中心的な指導者をほとんど殺害し、建物を破壊し尽した。パレスチナ住民の犠牲者は4万5000人以上に上っている。停戦に近づいていると伝えられる中、ネタニヤフ首相は「いつになるか分からない」と強硬姿勢を変えていない。国内の支持率も上がり、全ての状況が自分に有利になっていると自信を深めている。

 これと対照的なのがイランだ。イスラエルに対する「前方基地」だったヒズボラが事実上敗北し、アサド政権崩壊でシリアに駐留していた数千人の革命防衛隊を撤退させざるを得なかった。海外の拠点を失った打撃は計り知れなく、シリア政変の「最大の敗者」であることが一段と鮮明になってきた。

 イランのもう一つの「前方基地」であるイエメンのフーシ派は最近、テルアビブにミサイル攻撃し、十数人を負傷させた。ネタニヤフ首相が報復命令を出し、イスラエル軍がこれまでにイエメンの首都サヌアの国際空港などを猛爆撃した。空港に居合わせた世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が危うく難を逃れた。今後、フーシ派が大損害を被れば、イランにとってもさらなる打撃となるだろう。

 イランの苦境に追い打ちをかけるように、ここにきてイラン国内のエネルギー危機が深刻化。米紙によると、これまでにイランの発電所17カ所が停止に追い込まれ、工場などの生産能力も最大50%も落ち込んでいる。一般家庭や企業、役所なども電力カットにあえいでいる。

 「イランは国内外ともに追い込まれており、窮地を打開するために核兵器開発に走る恐れがある」(ベイルート筋)。実際、国際原子力機関(IAEA)はイランが濃縮度を60%に高めたウランの生産ペースを7倍以上に加速させていると警告している。

 イランの濃縮ウランの貯蔵は核爆弾4個を製造できる量に達している。新年の中東情勢が波乱含みの展開になるのは確実のようだ。

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