実際、「トランプⅡ」は、過去に見られた政権党のたんなる交代にとどまらず、国内、世界に大転換、悪くすれば大混乱を引き起こす“引き金”にもなりかねない。
その理由として、以下のような点が挙げられる。
「1期限りの大統領」の特異性
トランプ氏は先の大統領選を通じ、「1期4年間の執務」を公言してきた。当選後も、その方針を変えていない。
筆者は、去る1976年以来、主としてワシントンで長年、大統領選挙を直接取材してきたが、カーター、レーガン、ブッシュ(父)、クリントン、トランプ各候補とも、選挙戦で「1期のみ」を公約に掲げたことは1度たりともなかった。ただこのうち、レーガン、クリントン両大統領以外の3人は再選に挑んだものの敗退、1期のみで終わった。
しかし、上記5人にとどまらず、米国近代史を通じ、「1期のみ」を最初から公約に掲げて大統領になった政治家は誰もいない。この点で、第二次トランプ政権の特異性は際立っている。そしてそれは同時に、未知の波乱要因をはらんでいる。
政権交代で新たに政策立案、遂行に携わる政府巨大機構の数千人もの官僚、実務者たちがじっくり仕事をするには時間が限られているからだ。
このため、トランプ氏は最初から、わずか4年の任期を前提に「選挙公約」実現の実績を残すため、拙速に政策を打ち出してくる可能性がある。本来、解決に時間を要するはずのウクライナ戦争について、何の裏付けもなく「大統領就任1日目に停戦させる」などと公言しているのは、時間的焦り以外の何物でもない。
内政面でも、トランプ氏は何百万人もの外国人不法滞在者について「ただちに強制的に国外退去させる」と言明してきており、政権発足当初から、社会的混乱を引き起こしかねない。
ビル・クリントン政権で大統領首席補佐官だったマック・マクラーティ氏は「就任100日目で大統領が犯しやすい『歴史的過ち』は、前政権の政策をひっくり返すことを優先し、多くのことを焦ってやろうとするあまり、真に国民のためにやるべきことについての優先順位を忘れてしまうことにある」と警告している。
トランプⅠとの違い
「トランプⅡ」は「トランプⅠ」のたんなる延長・継続ではない。最大の特徴は、昨年選挙で共和党がホワイトハウスのみならず、議会でも上下両院の多数支配体制を確立した点にある。
閣僚、ホワイトハウス高官人事についても、前政権発足時には国務、国防長官、国家安全保障担当補佐官らに共和党中道派のベテランを登用するなど、比較的バランスのとれたものだった。しかし、今回は初めから、トランプ思想を体現した保守派一色の布陣となっている。
加えて、最高裁もすでに9人の判事のうち、共和党系判事が6人と絶対的多数体制にあることから、トランプ氏は行政、立法、司法の三権すべてを押さえたことになり、今後、政策の立案、遂行面で野党民主党の主張を軽視し、意のままに振舞う環境が整った。
とりわけ新議会では、トランプ前政権当時とは異なり、共和党議員の中でも中道派に代わり、トランプ氏の息のかかった「アメリカ第一主義」信奉者が多数を占めることになったため、一層過激な法案提出などの動きが予想される。