議会における調査・監視機能強化の動きも要注意だ。とくに共和党保守派議員の間では、対中国警戒感が強く、例えば、すでに下院に特設されている「米国対中国共産党戦略的競争委員会(US and Chinese Communist Party Strategic Competition Committee)」が今後、中国による対米影響力行使の実態解明、先端企業サプライチェーン保護などの観点から、中国と関係の深い国内外企業、大学、研究機関関係者の議会証人喚問、違反摘発などを準備中と伝えられる。
上下両院の財政、歳出委員会などでも、バイデン政権時代の「インフレ抑制法」「半導体サイエンス法」関連で「浪費」「不正支出」を徹底的に洗い直す構えだ。調査活動などを通じ、場合によっては司法省、連邦捜査局(FBI)も強制捜査に乗り出す事態も否定できず、とくに対中国関連では、中国のみならず、中国と取引のある同盟諸国の企業の活動もターゲットになり得よう。
この結果、米中関係の一層の冷却化、同盟諸国間の摩擦も懸念される。
保護主義への転換
評論誌「Washington Monthly」(1月2日付け)は「トランプはアメリカを保護主義の谷底に陥れようとしている」との見出しを掲げ、トランプ氏がバイデン大統領に先んじて、日本製鉄によるUSスチール買収阻止を声高に叫んできたことや、1月元旦の自らのSNSで外国製品に対する関税について触れ「過去の経験に照らし、諸関税のみがわが国に莫大な富をもたらす」「関税は国家債務を相殺し、再びアメリカを豊かな国にする(MAKE AMERICA WEALTHY AGAIN)」などと言明したことを問題視している。
関税問題に敏感に反応する船舶業界専門メディア「Freight Waves」によると、トランプ次期政権の関税政策は「3波」から成り、中国をターゲットにした「第1波」は今年夏までに「最低でも10%課税」が打ち出される。続いて「第2波」として26年9月までの間にメキシコからの輸入品に対する関税率が75%にまで引き上げられる。並行して「第3波」として、それ以外の諸国からの輸入品に対しても3%課徴金案が上程されており、専門家の分析では、26年末までに外国製品に対する平均関税率は8%近くに達する見込みという。
もし予測通りの課税が行われた場合、1930年に成立した悪名高い保護主義法「スム―ト・ホーリー法」以来の大幅な関税措置となる。
「スムート・ホーリー法」は、前年1929年に勃発した大恐慌の最中、フーバー大統領が国内産業保護を目的として打ち出した大幅関税引き上げ措置だったが、英独仏などの貿易相手国が報復措置として関税引き上げに踏み切ったため、結果的に世界貿易を減少させただけでなく、第二次世界大戦の遠因にもなったとされる。
しかし、大統領はじめ次期政権を担う関連省庁のトップたちが、果たしてこうした「歴史の教訓」を学んでいるかどうかについては疑問符がつきまとう。